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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                第21回『恋人交換殺人事件』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1982年の「土曜ワイド劇場」作品より、『恋人交換殺人事件』をご紹介します。この作品の原作は、赤川次郎先生。原作タイトルが「死体置場で夕食を」だといえば、ミステリーファンの方は「あぁ、あれか!」と思い当たるのではないでしょうか。同作は、1970年代末に『三毛猫ホームズ』シリーズなどで脚光を浴び始めた赤川先生が、1980年に発表した作品。多作ゆえ「シリーズもの」の印象が強い赤川先生ですが、同作は非シリーズながらも長く読まれており、2016年にも新装版が発行されました。

「土曜ワイド劇場」では、赤川先生の作品の映像化にいち早く着手していました。『幽霊シリーズ』の第1作『幽霊列車』は、なんと岡本喜八監督が手がけて、1978年1月に放送。そして『三毛猫ホームズ』は製作:東映、主演:石立鉄男という布陣でシリーズ化され、1979年から1984年まで、1年に1作のペースで放送されました。

そんな中、映画『セーラー服と機関銃』(81年)の大ヒットもあり、赤川先生は時代の寵児となっていきます。『恋人交換殺人事件』は82年2月の放送ですから、タイミングもバッチリだったといえるでしょう。監督は、『三毛猫ホームズ』第1作を担当した手銭弘喜さん。なお82年2月というと、あの「ホテルニュージャパン火災」(8日)や、日本航空350便墜落事故(9日/エンジンの逆噴射が原因となったことで知られる)が起こった時期でした。

 

カメラマンの紺野芳子(池上季実子)は婚約者で雑誌編集の仕事をしている糸井洋一(小倉一郎/※原作では洋一と芳子は夫婦の設定です)と一緒に猪苗代まで冬のドライブへと出かけました。しかし猛吹雪に見舞われ、洋一の運転する車は道に迷ってしまいます。それ以上は動けなくなった2人でしたが、運良く付近にロッジを見つけました。2人が訪ねて行くと、管理人の福原(三谷昇)は、泊まっていって構わないと彼らを歓迎します。そのロッジには、たくさんの先客がいました。ロッジのオーナーであるらしい安西(佐伯徹)とその妻(弓恵子)、運送業を営んでいるという太田(出光元)とその妻(高沢順子)、ホテル開発業を自称する湯川(藤木敬士)、そして田代美奈子(片桐夕子)。6人は、みなそれぞれ旧知の間柄のようでした。彼らは集まって談笑しており、「ご一緒に」と誘われた芳子でしたが、さすがに疲れているので、すぐに部屋で眠ることにしました。

しかし、一夜明けると、なぜかロッジには誰もいませんでした。先客たちどころか、管理人の福原も、さらには婚約者の洋一も……。当惑した芳子は、なんとか最寄りの交番まで辿り着いて、老警官(相馬剛三)に事情を説明しました。急遽、ヘリコプターが出動し、ロッジの様子を空から確認することに。ところが、なんとロッジは全焼。焼け跡からは、ひとりの男性の遺体が発見されました。やがて、その遺体は洋一である可能性が高いと聞いた芳子は悲嘆にくれます。いったい、どうしてこんなことになったのでしょうか。芳子は、猪苗代で知り合った元・刑事の瀬川(柴俊夫)とともに、ロッジにいた先客たちの行方を調べ始めますが……。

 

副題が「雪山に消えた七人」となっているように、序盤で奇想天外なトリックを読者(視聴者)に対して仕掛け、作品の世界へ否応なく引きずり込んでいくテクニックはいかにも、赤川先生的です。事件関係者を演じる面々がまた、クセの強い俳優・女優さんばかりで、殺人事件なのに、なんだか楽しく(?)なってしまう部分があるのも、赤川作品ならではのことでしょう。メインタイトルが『恋人交換殺人事件』なので、察しの良い方は、ロッジに集まっていた6人の「目的」にもすぐに気づくと思いますが、そのあたりは劇中でも早めに明かされるため、以降は「事件の真相」に焦点が絞られていきます。

しかし、物語が進んでも、なかなか風呂敷を畳みにいかないのが赤川作品の特徴。あっと驚く「新キャラ」が中盤で登場したり、意外な「伏兵」が現れたりと、飽きさせない作りになっています。ラスト10分くらいまでは「ホントに事件解決するの?」と心配になりますが、そこからの怒涛の展開にご期待ください。後の2時間ドラマが陥っていったような、クドい説明を省いている点が、この時代の2時間ドラマの良さ。「ながら見」をしている視聴者ではなく、作品を食い入るように観ている視聴者のほうをしっかり向いて作られたものは、やっぱり面白いです。もちろん、本作においても、いくつか「?」となるような強引な箇所は存在しますが、その点だけをあげつらって作品に低評価を下すのは、実にナンセンスなことでしょう。ちなみに、本作で使用されているブリッジ曲や効果音の類は、後の『スケバン刑事』シリーズ(85~88年)でも頻繁に使用されているため、そちらのほうで聴き馴染んでいる方が多いのではないでしょうか。効果:原田千昭さん、選曲:秋本彰さんは『ザ・スーパーガール』(79年)などを担当後、本作を経て『スケバン刑事』シリーズでもタッグを組んでいました。

あらすじで紹介できなかったキャストでは、刑事役の名古屋章さんが安定した演技を見せています。時期的にはちょうど、石立鉄男さんとの丁々発止のやりとりが好評を得ていた『秘密のデカちゃん』(81年)が終わったあたりでしょうか。80年代の名古屋さんは一連の「大映テレビ」作品において、常に最重要キャストのひとりでした。

柴俊夫さんは、主演を務めたNHK時代劇『いのち燃ゆ』(81年)が終わったあたり。『西部警察PART-Ⅲ』(83年)で、三浦友和さんの後釜としてレギュラー入りするのは、本作の翌年のことでした。そしてヒロイン役の池上季実子さんはやはり前年のNHK大河ドラマ『おんな太閤記』(81年)で豊臣秀吉の側室・淀殿を演じ終えたばかり。翌年には代表作のひとつとなる映画『陽暉楼』(83年)に出演されました。池上さん、柴さん、名古屋さんといったスターたちの絶頂期の仕事としても本作は見応えがあります。この機会にぜひご覧になってください。

 

それでは、また次回へ。11月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第5回でご紹介した『0計画(ゼロプラン)を阻止せよ』(原作:西村京太郎/出演:黒沢年男、児玉清ほか)、1983年の『火曜サスペンス劇場』より『夕陽よ止まれ』(監督:吉川一義/出演:丹波哲郎、紺野美沙子、野際陽子ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。

 

【11月の『刑事くん』(第2シリーズ)】

11月、新登場となるエピソードは第37話から第46話まで。その中から、今回は第43話「お父さんとのデート」をご紹介します。

第43話「お父さんとのデート」(監督:竹本弘一)

城南署で燻し銀の存在感を放つベテラン刑事「島さん」こと島崎刑事(守屋俊志)が、珍しく捜査情報を漏らすというミスを犯しました。そのため島崎刑事は、娘(遠藤薫)との約束を破って捜査に打ち込みます。ところが、そんな島崎刑事が暴力団に拉致されてしまいました。暴力団から呼び出された三神刑事(桜木健一)は、島崎を解放する代わりに、警察が集めた情報を提供せよと迫られます。仕方なく、これを了承した三神でしたが、上司である時村(名古屋章)や、同僚の宗方刑事(三浦友和)の目を盗んで捜査関係書類を持ち出すのは困難でした。しかし、このままでは島さんの命が危険です。そこで三神は、強引に書類を持ち出しましたが……。

 

第1シリーズの第1話から登場している「島さん」にスポットを当てたエピソード。本作のメインライターを務める長坂秀佳さんならではの視点が活かされた一編だといえるでしょう。ただ、30分ドラマということもあり、中盤はずっと拉致されたまま、というのが残念。1時間ドラマならば、「島さん」の心の葛藤がもう少し描き込まれていた気がします。「島さん」役の守屋俊志さんは結局、『刑事くん』には名古屋章さんとともに最終シリーズまで出演。さらに、本作と同じ枠で後に放送された『刑事犬カール』(77年)においても、刑事役で出演されていました。

悪役でゲスト出演しているのは幸田宗丸さんと黒部進さん。この2ショットを観て、なんだか既視感があるなぁと思っていたら、後の『スケバン刑事』(85年)第4話「白い炎に地獄を見た!」でも、2人は同じような役回り(幸田さんの配下の役が黒部さん)で出演されていたのでした。そして、なんと、その回では守屋さんも登場(クレジットは「守谷」となっていましたが)。ただし、こちらでの守屋さんは刑事役ではなく、幸田さんや黒部さんと同じく、悪役の側でした。

「島さん」の娘を演じているのは、70年代の東映テレビ作品に数多くゲスト出演していた子役の遠藤薫さん。なぜか長坂さんの脚本作品への出演が多く、具体的には『人造人間キカイダー』(72年/第31・32話)、『仮面ライダーX』(74年/第7話)、『快傑ズバット』(77年/第19話)といった具合です。

いよいよ、第2シリーズも終盤戦。11月末までの放送を終えると、残り9話となります。今後も引き続き、“刑事くん”の活躍にご期待ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

 

<放送日時>

『恋人交換殺人事件』

11月7日(土)18:00~20:00

11月14日(土)20:30~22:30

11月24日(火)13:00~15:00

 

『0計画(ゼロプラン)を阻止せよ』

11月7日(土)20:00~22:00

 

『夕陽よ止まれ』

11月24日(火)20:00~22:00

 

『刑事くん』(第2シリーズ)

毎週月曜日18:00~19:00(2話ずつ放送)

再放送:毎週金曜日7:00~8:00

 

『刑事くん』(第1シリーズ)

毎週木曜日19:00~20:00(2話ずつ放送)

2020年10月20日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第20回『花園の迷宮』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1988年の「火曜サスペンス劇場」作品より、『花園の迷宮』をご紹介します。この作品の原作は、山崎洋子先生。1986年の第32回「江戸川乱歩賞」受賞作にして、山崎先生の代表作です。ちなみに、1985年(第31回)の受賞者のひとりが、東野圭吾先生でした。

昭和初期の遊郭を舞台にした本作は大きな注目を浴び、映像化の企画が進められていきます。まずは1988年1月、映画版が公開されました。伊藤俊也監督がメガホンをとり、撮影を木村大作さんが担当。東映京都撮影所には舞台となる遊郭の豪華セットが建てられました(美術は「映像京都」代表を長きにわたって務めながら、数多くの映画で美術監督として手腕をふるった西岡善信さん)。主演は島田陽子さん(多恵役)。原作の主人公にあたる冬実(ふみ)役は工藤夕貴さんが演じ、冬実の幼なじみ・美津役は、ここでは冬実の姉という設定に改変され、野村真美さんが演じました。

ここまでの説明からも想像がつくかもしれませんが、映画版は原作から時代設定なども変更されるなど、比較的オリジナル要素が強い作品となっていました。

それに対し、映画公開の約2ヶ月後に放送されたテレビドラマ版のほうは、細部こそ異なるものの、大筋は原作に忠実だったといえるでしょう。あくまで『火サス』枠ではありますが、「日本テレビ開局35周年企画」という冠が付けられるなど、日本テレビ&東映が力を入れた作品だったことは間違いありません。監督は映画『戦国自衛隊』(79年)や、テレビドラマ『俺たちの旅』(75年)などで知られる斎藤光正さん。主演はNHK朝の連続テレビ小説『はね駒』(86年)で国民的人気女優となり、映画『恋する女たち』(86年)や『トットチャンネル』(87年)、舞台『レ・ミゼラブル』(87年)などでも好評を博していた斉藤由貴さんが務めました。斉藤さんといえば、東映ファンにとってはなんといっても『スケバン刑事』(85年)が印象深いところですが、東京と京都で撮影所こそ違っていたものの、斉藤さんにとって本作は『スケバン刑事』以来の東映作品だったことになります。

 

昭和7年(1932年)、横浜の遊郭「福寿」に、若狭の小さな漁村から、2人の少女が売られてきました。すでに18歳になっていた美津(小野沢智子)のほうは早速、女主人・多恵(岡田茉莉子)の意向もあって「顔見世」に出されることになりましたが、まだ17歳だったふみ(斉藤由貴)はしばらく、下働きを務めることになりました。

そのうちに、ふみは病気療養中の女郎・山吹(竹井みどり)の看護を命じられました。しかし、山吹の病は快復することなく、死亡してしまいます。その病状は、同じく「福寿」で5年前に亡くなった女郎・桔梗(一柳みる)のものと似ていました。

桔梗や山吹の死には不可解な点が多いことから、実は他殺なのではないかという噂も、まことしやかに流れていました。同じような疑惑は、ふみも抱いていましたが、そんなふみに対し、遣り手のお民(初井言榮)は明らかに、厳しい視線を向けるのでした。

そんな中、椿という名で売れっ子の女郎になりつつあった美津の客が死亡。美津もまた、死体となって発見されました。怒りとともに、いよいよ深まっていく、ふみの疑惑。果たして、美津や女郎たちを殺害したのは誰なのでしょうか? そして、彼女たちを殺さなければいけなかった犯人の動機は? 遊郭「福寿」では、いったい何が起こっているのでしょうか……?

 

遊郭で発生した、連続殺人事件の謎。時代背景を巧みに絡めたストーリーが展開され、やがて事件の全貌が明かされるシーンまで、高い緊迫感が保たれています。

幼なじみの美津までが被害者となったことで、ただでさえ負けん気の強いふみは、決して怯むことなく事件の真相へと迫っていきます。そんなふみにプレッシャーをかけるのが遣り手のお民。劇中ではたびたび、ふみ=斉藤さんとお民=初井さんが激突するシーンがあるのですが、初井さんはさすがの貫禄。対する斉藤さんも、一歩も引かない熱演を見せています。この2人に加えて本作では抑えた演技が中心の岡田茉莉子さんも存在感を示しており、遊郭という“花園”に集った女優たちの“競演”が、本作の最大の見どころといえるでしょう。

ビッグネームが並ぶ中、前半で重要な役割を担う美津=椿役として濡れ場にも挑戦しているのが、撮影当時24歳だった小野沢智子さん。本作の後には、映画『昭和鉄風伝 日本海』(91年)で浜田雅功さんが演じた主人公の高校時代の同級生役を演じたほか、多くの作品で活躍されています。また、どうしても女優陣が目立つ本作ですが、ピンポイントで左とん平さん、深水三章さん、梅津栄さん、井上昭文さんといった名バイプレーヤーの方々が個性を発揮しているのも見逃せません。

特別企画として、放送当時は2時間半の枠で放送された本作。ゆえに本編尺も、たっぷり2時間弱となっています。“豪華絢爛”という形容が相応しい娯楽大作、この機会にぜひ、ご覧になってください。

それでは、また次回へ。10月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第4回でご紹介した『女からの眺め』(脚本:早坂暁/監督:吉川一義/出演:岡田茉莉子、樹木希林、三ツ矢歌子、加藤治子ほか)、1981年の『土曜ワイド劇場』より『死刑執行五分前』(原作:比佐芳武/出演:若山富三郎、中村玉緒、高岡健二、内田朝雄ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひご堪能ください。

 

【10月の『刑事くん』(第2シリーズ)】

10月、新登場となるエピソードは第29話から第36話まで。その中から、今回は市川森一さんが脚本を担当した第32話「めぐり逢う日まで」と、第34話「青春への伝言」をご紹介します。

 

第32話「めぐり逢う日まで」(監督:富田義治)

ある化粧品店に泥棒が入りましたが、どうやら、盗まれたのは「ラブミー化粧品」のポスターだけでした。軽微な事件ということで、この件は三神刑事(桜木健一)がひとりで担当することに。しかし、軽微であったがゆえに、被害に遭った店さえ、まともに捜査に協力してくれませんでした。

そんな中、三神の執念で、ひとりの容疑者が浮かび上がりました。それは、ポスターに写ったモデル・春川マナ(菅沢恵美子)のファンで、高校1年生の加藤順平(今村良樹)でした。学校でも家庭でも、特に心配されることのない「健全な青年」の順平が、なぜこんな犯罪に及んだのか。順平の気持ちを想像していくうちに、三神刑事には、この事件の「動機」が見えてきたのです……。

この回の特徴は、ついぞ三神刑事が、この事件をどう処理したのか語られないことです。三神はどうやら、犯人の「動機」にしか興味がなかったようで、自分が推理した「動機」に間違いがなかったことが確認できると、そこで捜査をやめてしまいました。それどころか、「犯人」である高校生の少年と心を通わせ合うのです。「自分も同じだよ」と言わんばかりに……。

このあたり、市川森一さんが描く『刑事くん』の特徴といえるでしょう。現在のテレビ界では、「刑事ドラマ」という体裁をとっている以上は、このような脚本は映像化されにくい気がします。しかし、間違いなく言えるのは、『刑事くん』というシリーズの最大の魅力は今回のような、「刑事である前に、まず人間」という主人公・三神の姿を描いている点にある、ということです。

メインライターである長坂秀佳さんが描いたのが、“刑事”としての三神の成長だとするならば、市川さんは終始、“人間”としての三神に目を向け続けました。それも、描いたのは「成長」ではなく、変わらない「純粋さ」だったといえるでしょう。今回などは、言葉を選ばずにいえば、三神が独断で事件を「握りつぶした」とも捉えられるエピソードです。軽微な事件だったとはいえ、これでは本来、「刑事失格」でしょう。

ラスト、三神は別の事件の捜査に参加し、意外な形で、ポスター盗難事件にも終止符を打ちます。より正確にいえば、事件そのものではなく、彼自身の「気持ち」にピリオドを打ったのです。このくだりがあって、初めて「刑事ドラマ」として、しかもギリギリのラインで成立するというのが市川脚本の見事さでしょう。

なお、一部のマニアには知られているエピソードですが、ラスト近く、三神と順平がひとしきり話し合った後に無言になるシーンで、市川さんは「二人の青春の間を青い風が吹きぬける」という、おそらくシナリオ学校などでは「悪い例」として注意されそうな、絶妙なト書きを記しました。これを、市川さんと相性が良かった富田義治監督がどのように映像化したのか、ぜひ実際にご覧になって、確かめてみてください。

 

第34話「青春への伝言」(監督:加島 昭)

三神が知り合い、やがてお互いに思いを寄せ合うようになった高校生の少女・千景(小林千恵)。三神は自分が刑事であることを、そして千景は自分がスケバングループの中心メンバーで、暴力団の手先として犯罪に加担していることを隠していました。

しかし、やがて城南署が捜査中の事件の関係者として千景の名が浮かび、一方、暴力団の側も、千景と三神が会っていることを怪しみ始めます。もしかしたら、千景は自分たちの情報を、三神に提供しているのではないか?

千景は三神が刑事だと知り、激しいショックを受けました。しかも、組織からは裏切り者だと疑われることになり、千景のみならず、仲間たちまでが命の危険にさらされました。そんなとき、千景たちを必死の思いで救ったのは、他ならぬ三神でした。三神の心からの言葉を聞いて、泣き崩れるスケバングループ。そして千景は……。

「ピンスポ!」のインタビュー企画でも、主演の桜木健一さんが忘れられない回だと語っていた、『刑事くん』としては異色の恋愛編。このエピソードの放送は1973年12月でしたが、同年3月にリリースされ、夏を過ぎるころから本格的にヒットし始めたペドロ&カプリシャスの名曲「ジョニィへの伝言」がフィーチャーされており、サブタイトルも、同曲を意識したものになっていました。

先に紹介した第32話で、高校生と「理想の恋人」について話し合った三神。そんな彼がこの第34話で女子高生と交際している……というあたり、脚本の市川さんの中では32話と34話がつながっていたのかもしれません。もっとも、現職の刑事と女子高生(しかもスケバン)の熱愛、なんていうネタはやはり、現在のテレビ界では扱いづらいに違いありませんが……。

ラスト、文字通り「すれ違って」いく2人の青春を、加島昭監督が情感たっぷりに演出しています。ゲストヒロイン・千景を演じたのは小林千恵さん。本作の当時は中学3年生で、アイドル歌手としても活躍されていました。小学生時代には子役として『キャプテンウルトラ』(67年)や『ジャイアントロボ』(67年)などに出演。1971~72年にかけては「瞳ちえ」名義で活躍し、とりわけ『キイハンター』第210話「いんちきキイハンター探偵局」でのカオル役が印象的でした。こちらのエピソードも東映チャンネルで12月放送予定なのでどうぞお見逃しなく!

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『花園の迷宮』

10月15日(木)13:00~15:00

10月24日(土)15:00~17:00

10月27日(火)22:00~24:00

 

『女からの眺め』

10月20日(火)21:30~23:20

 

『死刑執行五分前』

10月31日(土)22:00~24:00

 

『刑事くん』(第2シリーズ)

毎週月曜日18:00~19:00(2話ずつ放送)

再放送:毎週金曜日7:00~8:00

 

『刑事くん』(第1シリーズ)

毎週木曜日19:00~20:00(2話ずつ放送)

2020年9月23日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第19回『盗聴する女』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、前回と同じく1986年の「火曜サスペンス劇場」作品より、『盗聴する女』をご紹介します。この作品は、NHK朝の連続テレビ小説『雲のじゅうたん』(76年)や、NHK大河ドラマ『武田信玄』(88年)などで知られる田向正健さんのオリジナル脚本を得て、東映出身(1968年よりフリー)のベテラン・小山幹夫監督がメガホンをとりました。

ちなみに、当時(1986年)は2時間ドラマにおける「オリジナル脚本」率も、それほど低くなかった時代。「火曜サスペンス劇場」に限っても、年間の約50作のうち、6割が「原作つき」でしたが、残りの4割はオリジナル脚本でした。それらの作品を手がけたのは橋田壽賀子さん、松木ひろしさん、黒土三男さん、長坂秀佳さん……といった錚々たるメンバーで、脚本家の層も厚かったことがうかがえます。

 

前川好子(岡田茉莉子)が経営するエアロビクス・スクールでインストラクターをしている新谷洋子(浅野ゆう子)は、ある日、前川から新しいインストラクター・徳田和代(村田香織)を紹介されました。和代の就任に伴い、自分が受け持っていた時間帯のいくつかが和代の担当となり、収入が減ってしまうことがわかって、洋子は前川に抗議します。しかし前川は、洋子の教え方が厳しいという生徒からのクレームが増えていることを告げ、洋子に対し、今後は一線を引いてはどうかと仄めかすのでした。

仕事に打ち込んできた日々は充実していましたが、気づけば洋子は世間で言うところの「適齢期」を過ぎていました。将来への不安が彼女の心の中で大きくなりつつあったころ、洋子はストレス解消のための「趣味」を発見しました。それは、マンションの隣の部屋に住むモデル・三枝礼子(根岸季衣)の、夜の情事を盗聴すること。しかし、洋子は気づいていませんでした。そんな彼女自身もまた、何者かによって盗撮のターゲットにされていたことを……。

ある夜、洋子が礼子の部屋を盗聴していると、少し様子がおかしいことに気がつきました。礼子の「声」は、情事のそれではなく、とても苦しそうな声だったのです。やがて、その声すらも聞こえなくなったため、礼子が殺されたのではないかと思った洋子は、迷った末、外の公衆電話から、匿名で警察に通報することにしました。なぜなら、自分の家から通報してしまうと、盗聴していたことがバレてしまうからです。

ところが――翌朝、マンションの管理人・橋本(小鹿番)と会った洋子は、橋本から意外なことを聞きました。礼子は、殺されてはいなかったのです。それでは、自分が昨夜、聞いた声はいったいなんだったのか? 洋子の心は、かき乱されました。

そんな中、洋子はひょんなことから礼子と知り合い、礼子の部屋で、ともにお酒を飲むような間柄になっていきます。自分よりも年上の礼子が、ふだんは寂しい思いをしていることも知りました。あの夜の「苦しそうな声」の謎は、まだ解けませんでしたが……。

しかし、落ち着きかけた2人の関係を揺さぶる事件が起こります。洋子を盗撮していた、カメラマン助手の内藤(宮川一朗太)が、洋子に接近してきたのです。さらに、内藤の口から、洋子が以前、礼子の部屋を盗聴していたことが、礼子にバレてしまいました。そのことを隠して、自分と友達付き合いをしていた洋子に対し、礼子の反応は……? そして、礼子の「苦しそうな声」の謎は、いよいよ明らかになるのでしょうか!?

 

「適齢期」を過ぎ、「ヒス女」呼ばわりされ、そのストレスから「盗聴」などという趣味に走る主人公を演じたのは、当時26歳の浅野ゆう子さん。13歳の若さで歌手デビューし、1980年代に入ると2時間ドラマへの出演が増えつつありましたが、いわゆる「トレンディドラマの女王」として不動の地位を確立するのは1988年の『抱きしめたい!』が大ヒットしたころから。つまり、厳密には“ブレイク前”だったわけですが、そんな浅野さんが「適齢期を過ぎたヒス女」などという役を演じているのは、かなり貴重といえるかもしれません。そもそも劇中でも、ヒロインの洋子は若いカメラマン助手から盗撮のターゲットになるほどスタイル抜群、容姿も端麗。それでも洋子が結婚できなかったのは、彼女の強い上昇志向ゆえでしょう。さらに言えば、おそらく実際の浅野さんと変わらない年齢設定のはずの洋子が、ともすれば(当時の言い方で)「行き遅れ」た女性として描かれているあたり、現在との大きな結婚観の違いを感じざるを得ません。

 

ところで、上記の「あらすじ」の時点では、まだ事件らしい事件は起こっていません。もちろん「火サス」ですから、「あらすじ」に書いた部分の後からメインの事件が起こる形です。それがどんな事件で、洋子はどのように巻き込まれていくのか……。これらは「観てのお楽しみ」とさせていただきます。

一方で、本作の醍醐味は、事件に関わる部分以外での洋子という女性の人物像を、深く描いたことでしょう。インストラクターとしての実績があるゆえに、ワガママな部分も隠さない洋子。そんな彼女とうまく距離感を保っていた経営者の前川さえも、やがて洋子の態度に怒りを露わにします。ここで岡田茉莉子さんという大御所のキャスティングが活きてくるわけで、後半の、岡田さんVS浅野さんの「女優」対決は、かなりの迫力となっています。ある意味では、メインの事件以上に、このシーンが本作の最大の見どころと言えるでしょう。

現在で言うところの「ストーカー」的な、若いカメラマン助手を演じているのは当時20歳の宮川一朗太さん。映画『家族ゲーム』(83年)で鮮烈なデビューを飾って以来、『青い瞳の聖ライフ』(84年)や『ヤヌスの鏡』(85年)といった「大映テレビ」製作によるドラマを中心に、活躍を続けていました。

そして、ネタバレになるため、「あらすじ」部分では触れなかった重要な役どころを演じているのが、森次晃嗣さんです。エンディングで表示される「役名」についても独特な表現だったりするため、ここではほとんど何も書けないのが残念ですが、森次さんがどんな役でどのタイミングで登場するか、といった点に注目してご覧いただくのも一興かと存じます。1980年代の森次さんは『柳生あばれ旅』(80~81年)の徳川家光や『銭形平次』(81~84年)の同心・矢吹など、時代劇で安定感のある演技を見せる一方で、刑事ドラマや2時間ドラマではクセの強い悪役を多く演じていました。本作と同じ「火サス」の1986年作品でも『間違えられた女』という作品で、昨今のテレビドラマではもはや登場させることさえムリなのではないかといったレベルの極悪人を演じていたのですが、本作では果たして?

ちなみに、森次さんと宮川さんという名前が並ぶと、映画『ウルトラマンゼアス2 超人大戦・光と影』(97年)を思い出す方もいらっしゃるかもしれません。森次さんは地球防衛組織の隊長役、宮川さんは副隊長役でした。もちろん、このことは本作とは何の関係もありませんので……。

 

それでは、また次回へ。9月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第3回でご紹介した『女教師』(脚本:新藤兼人/出演:和泉雅子、黒沢年男、根上淳、小池朝雄、横光克彦ほか)、1984年の『火曜サスペンス劇場』より『妄執の女』(脚本:宮川一郎/出演:市原悦子、財津一郎、結城しのぶ、新克利、誠直也ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひご堪能ください。

 

【9月の『刑事くん』(第2シリーズ)】

9月、新登場となるエピソードは第21話から第28話まで。その中から、今回は第25話「ちぎれた愛」をご紹介します。

 

強盗傷害事件を捜査していた三神刑事(桜木健一)は、喫茶店で張り込み中、犯人の舎弟と思われる男・三次を発見しました。三神は三次から事情を聞こうとしますが、たまたま店に客として来ていた少女・和美(戸島和美)とぶつかってしまい、和美の服を汚してしまったため、無視して三次を追うわけにもいかず、三次を逃がしてしまいます。この失態に、今日も上司の時村(名古屋章)から「バカモン!」と怒鳴られる三神でした。

しかし、和美は三神の対応に誠実さを感じたようで、再び三次の姿を喫茶店の近所で目撃した和美は、そのことを三神に知らせました。この情報により、城南署は犯人の山岸を逮捕することができたのです。

山国から東京へ出てきたばかりだという和美には、恋人がいました。彼の名は、西垣基樹(西城秀樹)。和美は、基樹と初めて海へデートに行くことを楽しみにしていました。

ところが、和美の情報提供を逆恨みした三次が、基樹と和美の待ち合わせ場所へ、仲間を連れてやって来ました。基樹は三次たちから和美を守ろうとしますが、逆に基樹を庇った和美が、三次に刺されてしまいました。その後、現場からは基樹、和美、三次たちの姿が消えましたが、事件の様子を目撃していた老婆(田中筆子)の情報を受け、三神たちが動き出します。いったい、基樹たちはどこへ消えたのでしょうか――。

 

1972年に歌手デビューし、1973年5月に発売された5thシングル「情熱の嵐」が大ヒットを収め、スター街道を驀進中だった西城秀樹さんを大フィーチャーしたエピソードです。とはいえ、「あらすじ」にあるように、三神刑事が秀樹さんの演じる基樹の「行方を追う」展開になっているなど、すでに多忙を極めていた秀樹さんのスケジュール確保に苦心した跡も感じられるエピソード。実際、脚本を担当された長坂秀佳さんも、「西城秀樹の役が『ずっと画面に出ている』ように、視聴者を錯覚させられないかと考えた」という旨を後にコメントされています。もちろん、完成した作品は良い意味で、清々しいほどの「西城秀樹プロモーション映像」となっていました。

初めて安井かずみさんが作詞を手がけ、間奏部分の台詞で「好きだ、好きだよ、好きなんだよ~!」と“絶叫”させたことでも知られる、6thシングル「ちぎれた愛」。発売は9月で、オリコンでは9月末から4週連続の第1位を記録しましたが、今回のエピソードは、まさにその真っ只中、10月1日の放送でした。番組にとっても、曲にとっても、最高の宣伝効果を示したのではないでしょうか。クライマックスでは「好きなんだよ~!」を意識したと思われる別の台詞も用意されており、長坂さんの脚本らしいサービス精神も感じさせてくれます。爽やかで熱く、何よりも“カッコいい”秀樹さんのフレッシュな演技をどうぞご堪能ください。

ちなみに、和美役で出演されている戸島和美さんは、このエピソードが放送される前の週(9月24日)まで、『刑事くん』と同じく月曜日に放送されていた『流星人間ゾーン』(73年)にレギュラー出演されていました。『ゾーン』でのクレジットは「北原和美」でしたが翌週の『刑事くん』では、『ゾーン』出演以前の名義だった戸島和美に戻しており、「北原和美」は実質的に、『ゾーン』限定での芸名だったようです.

 

文/伊東叶多

 

<放送日時>

『盗聴する女』

9月1日(火)13:00~15:00

9月15日(火)20:00~22:00

9月23日(水)24:00~26:00

 

『女教師』

9月12日(土)21:30~23:00

 

『妄執の女』

9月15日(火)13:00~15:00

 

『刑事くん』(第2シリーズ)

毎週月曜日18:00~19:00(2話ずつ放送)

再放送:毎週金曜日7:00~8:00

 

『刑事くん』(第1シリーズ)

毎週木曜日19:00~20:00(2話ずつ放送)

2020年8月26日 | カテゴリー: その他
その他

チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第18回『震える髪』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1986年の「火曜サスペンス劇場」作品より、『震える髪』をご紹介します。原作者は、映像化作品としては『密会の宿』シリーズなどが有名な佐野洋先生。短編集「贈られた女」(80年)所収の「日灼の跡」という作品が、この『震える髪』の原作となっています。

そして脚本・橋本綾さんと池広一夫監督という組み合わせは、現在でも『終着駅』シリーズを手がけている名コンビです。「火曜サスペンス劇場」においても、すでに1982年の作品『幻の犬』でタッグを組んでおり、そこから数えると約40年近くも、共同作業を続けていることになります。移り変わりの早い映像業界において、これは稀有な例のひとつと言えるでしょう。

 

絵画教室の講師をしながら、画家としての活動を続けていた津村葉子(秋吉久美子)。彼女は青木画廊の青木(川辺久造)に才能を認められ、個展を開くことになりました。しかし肝心の、個展に出す絵の作業がなかなか進みません。それは、愛する男性となかなか会えないことが原因でした。

その男性とは、「井川法律事務所」の代表で、自らも民事を中心に扱う弁護士として多忙な日々を過ごす井川悟(篠田三郎)でした。井川には妻子がおり、娘の明美(林美穂)は、葉子が働く絵画教室の生徒でした。井川と葉子は、明美を通じて知り合い、不倫の関係となったのです。まだ幼い明美は、父と「葉子先生」の関係には気づいておらず、それどころか厳しい母・淑子(山口美也子)への反発もあり、優しい葉子にとても懐いていました。

久しぶりに、ホテルで井川と2人だけの時間を過ごした葉子。彼女には「家庭への憧れ」がありませんでした。いや、ない「はず」でした。一方の井川は妻との離婚を考え始めていましたが、葉子は、それを望む気持ちを、できるだけ隠していました。

仕事も、そして不倫ではありましたが恋も、充実していた葉子。しかし、そんな彼女を悩ませるのは、母・秀(加藤治子)の存在でした。

秀は、葉子の本当の母ではありません。葉子が8歳のとき、父と秀が結婚し、葉子はそのときから、秀によって育てられたのです。秀と父の結婚は、いわゆる「略奪婚」でした。父は亡くなり、いまでは秀は料理屋の仲居をしていますが、何かあるとすぐに葉子を頼り、金を無心します。それだけでも葉子にとっては苦痛でしたが、彼女には、秀を嫌う理由がありました。葉子は、秀が自分の母を「殺した」と、信じて疑わなかったのです。葉子の母の死因は「自殺」で、秀が直接、殺害したわけではないのですが、「自殺」するように仕向けたのは秀に違いない……もちろん秀も、そんなことは一切、認めようとしないのですが。

自分は秀のような女になりたくない……そう思いながらも、不倫の恋におちた葉子。ただし、このままいけば、秀とは違った形で幸せをつかめるかもしれないと、葉子はひそかに期待していました。

ところが、そんな葉子の期待を奪う出来事が起こります。井川の妻・淑子は、探偵の村岡(井上昭文)を雇って、夫と葉子の不倫の証拠をつかんでいたのです。そして淑子はまず、葉子に対し、明美に絵画教室を辞めさせると言ってきました。さらに、葉子の個展が無事に開催されると、今度は初日に絵をすべて購入してしまいます。淑子は、それを慰謝料として夫と別れるように葉子に迫りました。

それでも、葉子と井川の気持ちは変わりませんでした。淑子には内緒で、明美を伴って、3人だけで会う日々……。傍から見れば、3人はまるで、幸せな家族のようでした。葉子が明美に、「あること」をするまでは。

 

昨今も芸能界などを賑わせている「不倫」。1980年代の中盤は、ドラマ『金曜日の妻たちへ』シリーズ(83~85年)の影響もあり、ある種の「不倫ブーム」とでもいうべき状況が発生していました。少なくとも芸能界の不倫に関する限り、当時の社会はいまよりも寛容だった気がします。

それはともかくとして、本作のメインテーマも「不倫」でした。自分の人生においても、父の不倫(と、それに伴う母の自殺)がトラウマとなっている女性が、憎むべき父の不倫相手と、同じような行動をとってしまう……。

主演の秋吉久美子さんはもちろん、一見、ドラマの本筋とは関係ないように見える秀役の加藤治子さんもまた、素晴らしい演技で、女性の「業」とでもいうべきものを感じさせてくれます。一方、夫を「奪われる」側を演じた山口美也子さんも、単なる脇役に終わらない熱演を見せていました。

「法律で裁けない罪のほうが重く苦しい」という台詞が劇中に出てきますが、まさに、この台詞の意味するところこそが、本作のテーマだと言えるでしょう。最初のクライマックスは葉子が秀に対して、積年の恨みを込めた言葉を叫ぶシーンですが、本作ではその後に、それを超える衝撃の、そして真のクライマックスが待ち受けています。ここでクローズアップされるのが、本作における「4人目の女」――明美です。

明美を演じたのは、近年まで『タクシードライバーの推理日誌』シリーズ(92~16年)にレギュラー出演されていた林美穂さん。本作は子役としてのキャリア初期の出演ですが、その鬼気迫る演技は、先に挙げた3人の名女優たちに引けをとらないものでした。当時は、「バファリン」CMなどでも活躍。子役時代の代表作には、『スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇』(86年)における“謎の美少女”こと「翔」役があります。

 

なお、あらすじ部分で紹介できなかったキャストとしては、「事件」が発生してからの登場となる「城西署」の深江刑事役・木村元さん、その部下・中川刑事役の河原さぶさんなどがいます。劇中、葉子の個展が開かれる「青木画廊」絡みのシーンは吉祥寺ロケ。「永谷シティプラザ」の1F部分が使用されていました。また、本作が放送された1986年4月8日といえば、当時のトップアイドル・岡田有希子さんの自殺というニュースが世間を驚かせたことを、最後に付記しておきます。

 

それでは、また次回へ。8月の「違いのわかるサスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第2回でご紹介した『殺意の重奏』(原作:森村誠一/出演:田村正和、多岐川裕美ほか)、1983年の『火曜サスペンス劇場』より『青い幸福』(原作:平岩弓枝/脚本:橋本綾/出演:新珠三千代、岡田裕介、山口美也子ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひご堪能ください。

 

【8月の『刑事くん』(第2シリーズ)】

8月、新登場となるエピソードは第11話から第20話まで。その中から、今回は第15話「父さんの背広」と第17話「朝日に誓って…」の2本をご紹介します。

「父さんの背広」

ある事件の鍵を握る人物の娘・レイコ(岩崎和子)が働く、駅の売店の近くで張り込んでいた三神刑事(桜木健一)。しかし、レイコにはカズヤ(高峰圭二)という恋人がいて、カズヤは三神とレイコの仲を疑ってしまいます。カズヤは自分の父親を憎んでおり、三神が亡き父親を尊敬していることも、気に食わないようでした。そしてレイコは、カズヤの境遇を知っているため、自分の父親がまだ生きていることを、カズヤに隠していました……。

 

「朝日に誓って…」

トラックが乗用車を執拗に追跡し、崖から転落させるという事件が起きました。幸い、乗用車に乗っていた鮫川(岡部正純)とリエ(志摩みずえ)の2人は助かりました。トラックの運転手・河島(篠田三郎)は、三神の友人でした。河島は城南署に自首してきますが、三神は、なぜ河島がこんな事件を起こしたのか、真相を突き止めようと奔走します。やがて、事件が発生するに至った、意外な経緯が浮かび上がってきました。

 

この2本を紹介した理由を単刀直入に言えば、いずれの回でも、ウルトラマンシリーズで主役を務めた俳優さんがゲスト出演しているからです。当時、ウルトラマンシリーズと『刑事くん』は、両作ともTBSでは橋本洋二プロデューサーが担当していました。それゆえ、それぞれの製作会社(円谷プロ/東映)は異なっていても、コラボ的な企画が実施されることがあったのです。すでに『刑事くん』(第1シリーズ)では、『帰ってきたウルトラマン』の放送終了直後の時期に団次郎(現:団時朗)さんがゲスト出演。逆に『ウルトラマンA』では、桜木健一さんが刑事役(ただし、三神刑事とは似て非なる別人)で友情出演していました。

「父さんの背広」のゲスト主役・高峰圭二さんは『ウルトラマンA』の主演。もともと『刑事くん』(第1シリーズ)にゲスト出演した際の演技が認められて『A』の主演に抜擢されたという経緯もあり、『刑事くん』とは縁が深い人物でした。

この回には、『帰ってきたウルトラマン』の後半からレギュラー出演した岩崎和子さんも出演。しかも、岩崎さんがレギュラー入りする回を担当したのは、この回の監督でもある冨田義治さんでした。ある意味、ウルトラマンシリーズのファンは必見の回だと言えるでしょう。また、犯人グループのメンバーとして大野剣友会の中村文弥さん、岡田勝さんも出演しており、“ウルトラマン対仮面ライダー”的な楽しみ方もできそうです(かなり特殊な楽しみ方ではありますが……)。

「朝日に誓って…」では、当時まさに『ウルトラマンタロウ』に出演中だった篠田三郎さんが、『タロウ』の主人公・東光太郎を思わせる青年役でゲスト出演。そもそも本作では、オープニングのタイトルバックで、「三神刑事に協力するトラックの運転手」という役どころで篠田さんが出演しているのですが、この人物がようやく劇中に登場したという意味も兼ねていました。さらに言えば、『刑事くん』(第2シリーズ)の前番組だったアクション時代劇『熱血猿飛佐助』では、桜木さんが猿飛佐助役で、篠田さんが霧隠才蔵役。「三神刑事と河島」は、「佐助と才蔵」であり、「刑事くんとウルトラマンタロウ」でもあったわけです。

高峰さんと篠田さん、2人の“イケメン”ゲストの演技にご注目ください!

 

文/伊東叶多

 

 

<放送日時>

『震える髪』

8月1日(土)13:00~15:00

8月15日(土)13:00~14:50

8月29日(土)13:00~15:00

 

『森村誠一の殺意の重奏』

8月8日(土)13:00~14:30

 

『青い幸福』

8月22日(土)13:00~14:50

 

『刑事くん』(第2シリーズ)

毎週月曜日18:00~19:00(2話ずつ放送)

再放送:毎週金曜日7:00~8:00

 

『刑事くん』(第1シリーズ)

毎週木曜日19:00~20:00(2話ずつ放送)

2020年7月28日 | カテゴリー: その他
その他

チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                 第17回『非行少年』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1985年の「火曜サスペンス劇場」作品より、『非行少年』をご紹介します。原作は、1978年に直木賞を受賞し、織田信長が主人公の「下天は夢か」など、多くの代表作を持つ津本陽先生。短編集「南海綺譚」(80年)や「前科持ち」(82年)には、和歌山市警の部長刑事・村野というキャラクターが登場するのですが、本作『非行少年』は「前科持ち」所収の一編「わくら葉が散った」を基にした作品でした。ドラマ化にあたり、物語の舞台は東京となり、村野刑事の所属は「渋谷南署」へと変更されています。

脚本は『Gメン75』や『キイハンター』、アニメ『マジンガーZ』などで知られる高久進さん。実は『Gメン』の一編「怪談・死霊の棲む家」(第273話)は、「南海綺譚」所収の「魔物の時間」を原作としていました。そして、この第273話を皮切りに、Gメンの立花警部(若林豪)が「長野県黒谷町」という架空の村を舞台に残虐な凶悪犯と対決していくという、俗称「黒谷町シリーズ」が始まり、『Gメン』後期を代表する企画として定着したのですが、このシリーズを手がけたのが高久さん(脚本)と小松範任監督でした。つまり、本作『非行少年』は、『Gメン』以来の高久さん(&小松監督)と津本先生の関係で成立した作品と言っても差し支えないのです。「黒谷町シリーズ」の名物(?)キャラ・望月源治(蟹江敬三)が持っていた「怖さ」も、そのままではないにせよ、本作で菅貫太郎さんが演じている島崎にも受け継がれているように思います。

渋谷南署の捜査課に勤務する部長刑事・村野(石立鉄男)は、中年にさしかかってから陽子(友里千賀子)と結婚しました。郊外の高層団地で、夫婦2人だけで暮らしていましたが、やがて陽子が妊娠。晴れて父親となる日を楽しみにしながら、日々の捜査に精を出していました。

ある日、渋谷南署に、2人の非行少年が連行されました。公園で浮浪者が殴り殺された事件の容疑者として……。ひとりは菅沼徹(坂井徹)。もうひとりは中出達也(吉田友紀)。達也の苗字に心当たりがあった村野は、道玄坂で「ひさご」という小料理屋を営んでいるという達也の母親に早速、会いに行きました。村野の想像通り、達也の母は彼がかつて愛した、中出美代子(岩井友見)でした。16年ぶりの、思いがけない再会。女手ひとつで達也を育ててきた美代子はいま、非行に走ってしまった達也に、手を焼いていました。そんな「美代ちゃん」の苦悩を知った村野は、達也をなんとかして更生させようと考え、証拠不十分で釈放の身となった達也をいきなり自宅へ連れて行きました。しかし、夫から何も詳しいことを聞いていない陽子は、達也にどう接すれば良いのか分かりません。そして達也自身も、なぜ刑事である村野がここまで自分と母親のことに肩入れするのか分からず戸惑いました。村野の家を出て、自分の家に帰った達也は、また大暴れ。「ひさご」の客たちも気分を悪くして、帰ってしまう始末です。これでは店を続けられないと嘆く美代子でしたが、達也に反省の色は感じられませんでした。

やがて、村野は達也に関する「ある事実」に突き当たります。衝撃を受けた村野刑事でしたが、その「事実」は、妊娠中の妻・陽子をも苦しめることになりました。一方、達也や徹といった渋谷の不良少年・少女たちを自らの子分のようにこき使っていたのは、かつて村野に逮捕された、やくざの島崎(菅貫太郎)でした。村野に恨みを抱く島崎は、達也の仲間のひとり・木口カヨ(桑田和美)に対し、「達也にシャブ(覚醒剤)を打ってこい」と命令します。達也を覚醒剤中毒にすることで、村野をも苦しめようと考えたのです。カヨは達也を呼び出し、2人は廃工場で会いましたが、その後、カヨは遺体で発見されました。容疑者となったのは、現場から急いで走り去った達也。彼は殺人を犯してしまったのでしょうか。村野は、犯人は達也ではないと信じ、必死で捜査を進めますが……。

 

一枚の病(わくら)葉が、周りの葉もダメにしてしまうように、ひとりの非行少年=達也の存在が、本来は無関係だったはずの村野家まで崩壊へと導いていく……。達也は決して病葉ではないと信じながらも、どんどん立場的に追い込まれていく村野刑事の姿が印象的です。村野役の石立鉄男さんは、1970~80年代のテレビドラマ界を代表する人気俳優。東映作品では「土曜ワイド劇場」の「三毛猫ホームズ」シリーズ(79~84年)などでも活躍されていました。シリアスからコメディまで、幅広くこなす石立さんですが、本作では自分の「青春」に決着をつけようとする中年刑事という役柄を熱く演じています。タイトルロールでもある非行少年・達也役は『俺はあばれはっちゃく』(79年)で主演だった、子役出身の吉田友紀さん。石立さん、そして友里千賀子さんとは、すでに『気まぐれ本格派』(77年)で共演経験があるので、3人のシーンを観て、既視感を抱く方も多いのではないかと思います。同様に、村野の上司にあたる滝口刑事役の内藤武敏さんも、前述の「三毛猫~」においても、石立さんが演じた主人公・片山刑事の上司役でした。

本作で、圧倒的な存在感を示すのが、島崎役の菅貫太郎さん。テレビ時代劇の名悪役としてのイメージが強い方ですが、今回は、いわゆる類型的な悪役キャラとは一線を画した役作りで、持ち前の演技力が存分に活かされていました。達也の不良仲間役は、坂井徹さんや桑田和美さんが演じています。本作の放送日の2日後にスタートしたのが、80年代の伝説的なドラマ『スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説』(85年)なのですが、坂井さんも桑田さんも『スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇』(86年)では、忍者役でゲスト出演していました。

 

村野が「渋谷南署」勤務ということで、80年代中盤の渋谷の街でロケが敢行され、貴重な映像となっています。一方で、冒頭とラストに登場する村野の自宅アパート付近は、板橋区高島平でロケ。高島平から渋谷というのは、現実で考えると、通勤経路としては決して便利ではないのですが、練馬区に撮影所(大泉)を持つ東映の作品では、高島平付近は現在でも、ロケ地として頻繁に使用されているのです。

 

今回も、あらすじ部分に登場しなかったキャストの顔ぶれを軽く紹介しておきましょう。村野の同僚刑事・平林役は大場順さん。本作の翌年より、「火曜サスペンス劇場」の人気シリーズ「監察医・室生亜季子」に、やはり刑事役で参加して、2007年のシリーズ終了まで皆勤しました。このほか、青木刑事に『科学戦隊ダイナマン』(83年)のメギド王子役で知られる林健樹さん。少年課の刑事には『特別機動捜査隊』の後期(74~77年)に矢崎班の谷山部長刑事役で出演していた和崎俊哉さんが扮しています。美代子の店「ひさご」で働く若い女性・春恵役を演じた愛田夏希さんは、本作の放送の2週間後より、『特捜最前線』にレギュラー参加。特命課の江崎婦警として、最終回(87年)まで出演されました。

 

それでは、また次回へ。なお、7月の「違いのわかるサスペンス劇場」では本作のほか、1984年の『火曜サスペンス劇場』より『沈黙は罠』(原作:夏樹静子/脚本:橋本綾/出演:香山美子、山本圭ほか)、1973年の『サスペンスシリーズ』より『人妻恐怖・地獄道路』(監督:降旗康男/出演:野際陽子、中丸忠雄ほか)、『現代鬼婆考・殺愛』(監督:竹本弘一/出演:千葉真一、志穂美悦子、野際陽子ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。

 

【7月の『刑事くん』(第2シリーズ)】

7月、新登場となるエピソードは第3話から第10話まで。その中から、第5話「青空の待つ日」(脚本:長坂秀佳/監督:竹本弘一/1973年5月14日放送)を紹介します。

有名作曲家の御園が、自宅で殺害されました。後頭部を何かで殴られたことが死因だと思われましたが、現場に凶器は残されていませんでした。そんな中、三神刑事(桜木健一)は部屋に飾られていた写真から、高価そうな青銅の置物が、部屋から消えていることに気づきます。御園家のお手伝いさん(原ひさ子)は、置物は少なくとも、殺人事件が発生する直前まで、部屋にあったはずだと証言しました。凶器はその置物である可能性が高くなりましたが、果たして犯人は誰なのでしょうか。宗方刑事(三浦友和)は、父親が殺されたばかりでショックを受けている娘・アケミ(麻丘めぐみ)にも、容赦なくアリバイを尋ねます。動揺するアケミ。容疑者として考えられるのは他に、御園の弟子であるマキハラ(沢木順)とヤベ(田辺進三)の2人がいましたが、彼らのアリバイは完璧で……。

第3話(郷ひろみ)、第4話(森昌子)に続く、当時の若手スターのゲスト出演エピソードです。麻丘さんは子役、モデルを経て1972年に歌手デビュー。その年末の「日本レコード大賞」では、最優秀新人賞を受賞していました。本作のラストで流れるのは、1973年1月にリリースされた3rdシングル「女の子なんだもん」。代表曲として知られる「わたしの彼は左きき」がリリースされるのは1973年7月なので、本作への出演当時は、まさにアイドル歌手としての人気が頂点に達しようとしていた時期だったと言えます。

そんな麻丘さんが演じるアケミは、どうやら、父親の弟子のひとりに対して、ほのかな思いを寄せていたようです。その人物が殺人容疑者として捜査線上に浮かんだとき、純朴な少女・アケミの心は? そして、完璧であるかに思われた容疑者のアリバイを、三神刑事はどのように崩すのでしょうか……。

麻丘めぐみさんの初々しさと可憐さは必見。また、三神刑事の捜査方法は「あっと驚く」もので、彼のまっすぐな性格そのものが、事件の謎を解いたと言っても過言ではないでしょう。マキハラを演じたのは後に劇団四季のミュージカルスターとして活躍することになる沢木順さん。近年も現役として活動中の沢木さんですが、映像作品への出演は珍しく、ブレイク前ゆえの、貴重なフィルムとなっています。本作と同時期には『ウルトラマンタロウ』主題歌のカバーバージョンを発表。こちらも、現在では「知る人ぞ知る」音源となっているようです。もうひとりの弟子・ヤベ役の田辺進三(後に「田辺宏章」へと改名)さんは、俳優のほか、1980年代には声優としても活躍されていました。

7月の『刑事くん』(第2シリーズ)ではこの他、第6話に松坂慶子さん、第10話に竹下景子さんがゲスト出演されています。どうぞ、お楽しみに!

 

文/伊東叶多

 

<放送日時>

『非行少年』

7月11日(土)14:00~15:50

7月25日(土)13:00~15:00

7月31日(金)20:00~22:00

 

『沈黙は罠』

7月4日(土)13:00~15:00

7月18日(土)14:00~16:00

7月30日(木)20:00~22:00

 

『人妻恐怖・地獄道路』

7月4日(土)15:00~16:00

7月9日(木)14:00~15:00

7月18日(土)13:00~14:00

 

『現代鬼婆考・殺愛』

7月11日(土)13:00~14:00

7月25日(土)15:00~16:00

 

『刑事くん』(第2シリーズ)

毎週月曜日18:00~19:00(2話ずつ放送)

再放送:毎週金曜日7:00~8:00

 

『刑事くん』(第1シリーズ)

毎週木曜日19:00~20:00(2話ずつ放送)

2020年6月26日 | カテゴリー: その他
その他

チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 特別編(第16.5回)     『刑事くん』第2シリーズ、いよいよ放送スタート!

「さて来週、4月16日からはみなさまのご要望に応え、熱血漢・桜木健一の『刑事くん』がふたたび登場します。盗みの疑いをかけられた三神鉄男は、犯人捜しに乗り出したが、鉄男がそこで見たものは、ささやかな夢を求める若者の姿であった。鉄男は決心した。刑事でなければ、できないことがある。もう一度、刑事になろう。第1回『刑事くん/ぼくたちの春』は、千葉真一をゲストに迎えてお送りします。どうぞ、お楽しみに!」

(新番組予告より/ナレーション:村越伊知郎)

 

……というわけで、6月29日からはみなさまのご要望に応え、熱血漢・桜木健一の『刑事くん』がふたたび東映チャンネルに登場します。これを記念し、「東映テレビドラマLEGACY」も特別編(第16.5回)として『刑事くん』をご紹介。1970年代の「30分ドラマ」では人気の面でも内容においてもトップクラスに位置する本作が後世に語り継がれていくことを願って――。

 

そもそも『刑事くん』は、“スポーツ&根性もの”ブームの一翼を担ったドラマ『柔道一直線』(69~71年)の主演で青春スターの座をつかんだ桜木健一さんの、次なる活躍の場として用意された作品でした。

 

実際には『刑事くん』より前に、『柔道一直線』と同じく梶原一騎先生の原作、桜木さん&吉沢京子さんの主演、東映の製作で『太陽の恋人』という学園ドラマ(1時間枠)が放送されていましたが、こちらは1クール(3ヶ月)で終了。桜木さんは、ここで実質的に学生役を卒業し、今度はスーツ姿で「新米刑事」役に挑むことになったのです。いまの時代、「刑事くん」というと、フィギュアスケーターの田中刑事さん(本名!)を思い出す方が多いかもしれませんが、新米刑事の成長を描くドラマのタイトルとして『刑事くん』は秀逸だったと言えるでしょう。前例として、水木しげる先生の『悪魔くん』や藤子不二雄Ⓐ先生の『怪物くん』などもありますが、『刑事くん』の企画者は、その『悪魔くん』を実写化(66~67年)してヒットさせた実績のある、東映の平山亨プロデューサーでした。

 

『刑事くん』での桜木さんの役柄は、三神鉄男。父親も刑事でしたが、ある事件で殉職。鉄男は、この事件の真犯人を自分の手で捕まえるために、刑事になったのです。しかし、現実に刑事という職についたら、当然ながら、特定の事件を自分の都合で捜査するわけにはいきません。猪突猛進の熱血漢にして人情家の鉄男は、それぞれの事件の関係者に感情移入するあまり、日々失敗の連続。それでも、上司の時村は、そんな鉄男を全否定することなく、時に厳しく、時に優しく、見守り続けるのでした。

 

時村を演じるのは、名古屋章さん。企画チーム(東映=平山亨さん&齋藤頼照さん、TBS=橋本洋二さん)をはじめ、初期話数の脚本を手がけた佐々木守さんや、監督の奥中惇夫さん、富田(冨田)義治さん、そして名古屋さんといったメンバーは『柔道一直線』からの続投であり、桜木さんとの相性も抜群でした。ここに、当時はまだ若手だった市川森一さんや長坂秀佳さんといった、後のテレビドラマ界を支えることになる脚本家たちが加わったことで、『刑事くん』は「70年代型」刑事ドラマとでも言うべきスタンスを確立していきます。極めてシンプルに言えば、「犯人」あるいは「事件」が主役になることが多かった60年代までの刑事ドラマに対し、「犯人」あるいは「事件」を追う側の“刑事”が主役になっていったのが「70年代型」刑事ドラマ。主役の刑事が事件もしくは犯人と接して何を感じ、それが彼という人間にどんな影響を与えたか、といった描き方が生まれたのです。もちろん70年代の刑事ドラマすべてがこういったパターンになったわけではなく、あくまで「新たな潮流」ではあるのですが、『刑事くん』と、その翌年にスタートした『太陽にほえろ!』が、一つの流れを決定づけたと言えるでしょう。『刑事くん』の三神鉄男と上司・時村の関係は、そのまま『太陽にほえろ!』におけるマカロニ刑事(萩原健一)やジーパン刑事(松田優作)とボスこと藤堂(石原裕次郎)のそれでした。この構図に先鞭をつけたという点でも『刑事くん』は評価されるべき作品ですが、さらに遡れば、このような関係性の描き方は一連の“スポーツ&根性もの”の流れを汲んでいるわけで、「70年代型」刑事ドラマの誕生は、時代の移り変わりが導いた「必然」だったのかもしれません。

 

新鮮なイメージの刑事ドラマとして早い段階で視聴者を惹きつけることに成功した『刑事くん』ですが、ヒットの要因として、若者に人気のある新鋭スターを次々とゲスト出演させたことも忘れてはならないでしょう。第1シリーズの第12話「もどらない日々」で萩原健一さんが登場し、話題を呼んだことがきっかけとなって、第3クールへと突入した1972年・春期の放送回(第32~35話)では、沢田研二さん、小柳ルミ子さん、南沙織さん、天地真理さんが次々と出演しました。内容面の充実に加え、抜群の宣伝施策も功を奏し、『刑事くん』は高い評価のまま、1年あまりの放送期間を終えます。その最終回となった第57話「人間たちの祭り」では、ついに三神鉄男は父が命を落とした事件の真犯人に辿り着くのですが、現在も東映チャンネルで第1シリーズがリピート放送中ゆえ、具体的な顛末まではここでは触れないことにします。ともあれ、そもそも自分が刑事になった「動機」の部分がなくなった以上、鉄男が刑事を続ける選択肢はありませんでした。さまざまな経験を積んで傷つき、同時に成長した鉄男は刑事を辞め、「人間たち」の中で生きていく決意を固めたのです。

 

こうして『刑事くん』は終了。翌週からは、同じく桜木健一さんの主演による時代劇『熱血猿飛佐助』が放送されました。昭和40年代は、まだ子ども向けの「30分時代劇」というジャンルが残っていた時代。同時期には、『快傑ライオン丸』や『変身忍者嵐』などの特撮ヒーロー時代劇も登場していた中、『熱血猿飛佐助』も健闘し、2クール(半年間)の放送を終えます。そして、その後を受ける形になったのが『刑事くん』第2シリーズでした。当時は『刑事くん』や『熱血猿飛佐助』と並行して、『君たちは魚だ』や『まんまる四角』といった1時間枠のドラマにも出演していた桜木さんでしたが、その中でも、『刑事くん』の三神鉄男は『柔道一直線』の一条直也に続く「当たり役」となったようです。

 

東映チャンネルで6月末よりスタートする『刑事くん』第2シリーズは、1973年4月から放送されました。冒頭で引用した新番組予告からもお分かりのように、その第1話では、当然ながら、三神鉄男の「復職」が描かれます。第1話でしか描かれない、「元・刑事」という状況の鉄男の日常や、彼が復職を決意することになった、ある事件との関わりに注目して、ご覧ください。ゲスト出演の千葉真一さんは当時、5年間にわたってレギュラー出演した『キイハンター』を終えたばかり。そして4月末には大友勝利役で新境地を開拓した『仁義なき戦い 広島死闘篇』の公開を控えており、まさに「ノリにノッている」時期の出演でした。千葉さんは、同じ1973年4月には『ロボット刑事』の第1・2話にもゲスト出演。この時期、“千葉真一”という名前が若い視聴者層にとって、どれだけ効果的だったかを示す事実だと言えるでしょう。一方で、これらの番組に多忙にもかかわらず出演し、後に続く若手たちを積極的に応援した“チバちゃん”のフットワークの軽さ、度量の大きさも記憶したいところです。

 

第2シリーズの新登場キャラクターで注目すべきは、鉄男のライバル的な存在となる同僚刑事・宗方です。演じたのは、当時21歳の三浦友和さん。1972年に『シークレット部隊』で俳優デビューし、『剣道一本!』で早くも初主演を飾っていた二枚目俳優が、本作に新風を吹き込みます。このほか、『サインはV』(69~70年)への出演でブレイクした中山麻理さんも婦人警官・吉本真琴役でレギュラー入り。鉄男、宗方、吉本真琴の3人がドラマの主軸となるフォーマットが確立されました。

 

第2話以降の展開についても少し触れておくと、第3話~第6話が早くも「豪華ゲスト月間」となります。第3話は郷ひろみさん、第4話は森昌子さん、第5話は麻丘めぐみさん。そして第6話には、同時期にNHK大河ドラマ『国盗り物語』(濃姫役)をはじめ、『愛がはじまるとき』『思い橋』といった3本の作品に出演して大ブレイク中だった松坂慶子さんが出演しました。シリーズ再開の初期エピソードだけあって、どの回も充実した内容なので、楽しみにしていただければと思います。そうそう、第4話では森昌子さんの友人役で、放送日の2週間後(1973年5月21日)に歌手デビューを控えていた、後のビッグスターが出演しています。デビュー前ということもあって、画面への登場時間はわずか10秒。決して見逃さないでください。ちなみに、本作では残念ながら、“まだ”三浦友和さんとの共演シーンはありませんでした(と書けば、誰のことだか想像つきますよね?)。

 

なお『刑事くん』はこの後、第3シリーズまで桜木さんが主演し、新たに星正人さんが主演となった第4シリーズまで続きます。こちらの放送は未定ですが、まさに東映の「LEGACY」と言えるシリーズなので、期待したいところです。もちろん『刑事くん』に限らず本文で触れた『太陽の恋人』や『熱血猿飛佐助』の放送も待たれるところ。筆者に同意の方はぜひ、東映チャンネルまで熱いリクエストをお寄せくださいませ!

 

文/伊東叶多

 

<放送日時>

『刑事くん』(第2シリーズ)

6月29日(月)スタート

毎週月曜日18:00~19:00(2話ずつ放送)

再放送:毎週金曜日7:00~8:00

脚本:佐々木守、市川森一、長坂秀佳、小山内美江子ほか

監督:富田義治、竹本弘一、村山新治、小松範任ほか

音楽:菊池俊輔

出演:桜木健一、中山麻理、三浦友和、名古屋章ほか

 

『刑事くん』(第1シリーズ)

毎週木曜日19:00~20:00(2話ずつ放送)

脚本:佐々木守、市川森一、長坂秀佳ほか

監督:奥中惇夫、富田義治、竹本弘一ほか

音楽:菊池俊輔

出演:桜木健一、仲雅美、名古屋章ほか

 

『柔道一直線』

毎週水曜日18:00~19:00(2話ずつ放送)

脚本:佐々木守、上原正三ほか

監督:奥中惇夫、富田義治ほか

音楽:みぞかみひでお

出演:桜木健一、高松英郎ほか

2020年6月12日 | カテゴリー: その他