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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY   第10回『百円硬貨』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、先月に続いて『傑作推理劇場』より、1981年作品『百円硬貨』をご紹介します。『傑作推理劇場』の詳細については、当コラムの第8回をご参照ください。

 

『百円硬貨』の原作は、松本清張先生。古くは1950年代から、松本清張先生の作品は頻繁に映画化・テレビドラマ化がなされてきましたが、特にテレビ界で「2時間ドラマ」が隆盛を誇った80年代は、どの局もこぞって、「確実に視聴率が獲れる」清張作品の映像化に力を入れていました。同じ原作が繰り返し映像化されることも多く、脚本や演出、キャスティングなどを比較して楽しんでいる方も、けっこういらっしゃるのではないでしょうか。

この『百円硬貨』は、1978年に「小説新潮」に掲載された後、翌年に発行された短編集「隠花の飾り」に収録された短編。1981年に放送された本作が、初の映像化でした(後の1986年6月、フジテレビ系列の関西テレビの製作により、池上季実子さんと奥田瑛二さんの主演で再び映像化されています。ちなみに、2人が共演した『男女7人夏物語』は、同年7月のスタートでした)。

本作のプロデューサーは高橋正樹さん(テレビ朝日)と阿部征司さん(東映)。監督が野田幸男さん、脚本が橋本綾さん、助監督に三ツ村鐵治さんと、『特捜最前線』(77~87年)に関わった方々の名前が並びます。野田監督は、東映では言うまでもなく『不良番長』シリーズのメイン監督(第1作をはじめ、全16作のうち11作を担当)として有名ですが、1970年代後半からは、主にテレビ作品で活躍。『傑作推理劇場』では、すでに東映チャンネルで放送済みの1980年作品『殺意』(主演:坂口良子)に続く登板でした。

 

いまはあまり見かけなくなった公衆電話で、悲壮な表情を浮かべて、相手と話しているひとりの女性がいました。彼女の名は大川伴子(いしだあゆみ/原作では「村川伴子」)。伴子はどうやら「すべてを捨て」て、ひとりの男と添い遂げる決心をしたようです。「明日の朝、必ず迎えに来て」と約束して、伴子は東京駅から新幹線に乗りました。合計13時間の旅を終えたころ、彼女は山陰の田舎町に着き、男の胸に飛び込んでいるはずでした――。

話は、伴子が男と出会った、4年前へとさかのぼります。伴子は、小さな銀行の出納係として働く、28歳の女性でした。毎日、毎日、銀行と自宅のアパートを行き来するだけの、変わり映えのしない日々(伴子という名前は、判で押したような生活を送る女性というイメージから来ているのかもしれません)。ある朝、彼女は通勤のためにバスに乗り込む際、慌てていたのでうっかり百円を落としましたが、いつもと同じバスに乗ることを優先しました。この「百円硬貨」が、後に自分の人生を左右することになるなんて、伴子は全く考えもしませんでした――。

この退屈な人生を変えたいと、漠然と考えていた伴子は、バス通勤の途中で目にとまった自動車を購入したいと思い立ちます。セールスマンを通じて、その自動車を購入した伴子。彼女の人生は確かに変わりました。この一件を通じて知り合った、妻子持ちのセールスマン・細田龍二(川地民夫)と不倫の関係に陥ったのです。

やがて伴子は細田との結婚を考えるようになりました。細田のほうも同じ気持ちでしたが、細田は妻(上村香子)との間に6歳の長女もおり、夫婦仲こそ冷えているものの、妻は別れる気など毛頭ないようでした。

しかし、あるときを境に、状況が変わりました。慰謝料3000万円を出せば、妻は細田との離婚に応じると言うのです。どうしても細田と結婚したい伴子は、自分の勤め先から、金を横領するという行動に出ました。長年にわたって銀行で毎日、同じ仕事を続けてきた伴子には、「完全犯罪」を成功させる自信があったのです。ある土曜日の午後、伴子の「犯行」は完了しました。そして彼女は東京駅近くの公衆電話から山陰の田舎町で待つ細田に連絡して、新幹線に飛び乗ったのでした。果たして、伴子の人生を賭けた「完全犯罪」の行方は……?

 

つい、主人公に感情移入して観ていると辛くなってしまう、あまりにも皮肉なラストが待ち受けています。伏線の張り方の巧さは、さすがに清張先生というところでしょう。なお、本作のオチは、現在の世の中では成立しにくい(全く同じ状況になること自体は考えられるものの、オチの「切れ味」としては落ちる)ことを補足しておきます。もちろん、そのことが本作のクオリティを左右するわけではないので、念のため……。

いしだあゆみさんが演じる伴子は、回想で描かれる「28歳」の時点で、職場で「オールドミス」と呼ばれている設定。ここにも、結婚適齢期が若かった時代と現在の大きなギャップを感じます。1981年のいしださんといえば、映画『駅 STATION』で高倉健さんが演じた主人公の別れた妻を演じたり、テレビドラマ『北の国から』でも、同じく主人公・黒板五郎(田中邦衛)の妻を演じたり、といった時期。そもそも伴子のような「婚期を逃した女性」のキャスティングとしてリアリティがあるのか、とも思ってしまいますが、そこは流石にいしださんで、素晴らしい役作りで説得力を与えていました。いしださんの渾身の演技だけでも、本作は一見の価値アリと言えるでしょう。年の瀬、何かと忙しい時期になりますが、放送日にはぜひ、テレビの前に座っていただければ幸いです。

 

それでは、また次回へ。なお、12月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか、同じく『傑作推理劇場』1981年作品より、『雪の螢』(原作:森村誠一/監督:浦山桐郎/出演:大空眞弓、河原崎長一郎ほか)も放送されます。『火曜サスペンス劇場』の1986年作品『あなたから逃れられない』(原作:小池真理子/監督:長谷部安春/出演:佐藤友美、仲谷昇ほか)も久しぶりの放送ですね。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください!

 

文/伊東叶多

 

<放送日時>

『百円硬貨』

12月7日(土)13:00~14:00

12月21日(土)14:00~15:00

 

『雪の螢』

12月7日(土)14:00~15:00

12月21日(土)13:00~13:50

 

『あなたから逃れられない』

12月14日(土)13:00~14:50

12月28日(土)13:00~14:50

2019年11月26日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第9回 『消えた男』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、先月に続いて『傑作推理劇場』より、1980年作品『消えた男』をご紹介します。『傑作推理劇場』の詳細については、前回のコラムをご参照ください。

 

『消えた男』の原作は、土屋隆夫先生の短編「加えて、消した」。土屋先生の代表作と言える「千草検事」シリーズは、1982年に『火曜サスペンス劇場』で、北大路欣也さんの主演で2作が放送されたほか、『土曜ワイド劇場』では江守徹さん(80年)、片岡孝夫さん(86年)、渡哲也さん(97年)、『金曜エンタテイメント』(05年)では西村まさ彦さんが、千草検事を演じています。

「加えて、消した」は絶妙なタイトルで、これを頭に入れておくと、もしかしたら劇中でのある“トリック”の解明には少し有利かもしれません。

脚本は、映画『霧の旗』(77年)や『あゝ野麦峠』(79年)などを手がけた服部佳さん。そして監督は、『七人の侍』(54年)などの黒澤明監督作品でチーフ助監督を務めた後、監督デビューして『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(60年)、『激動の昭和史 軍閥』(70年)、『翼は心につけて』(78年)などを手がけた堀川弘通監督でした。

主人公は、大学の理学部で助教授をしている秋津俊輔(緒形拳)。彼には結婚して10年になる美しい妻(高林由紀子)がいましたが、かつて流産したことがあり、夫妻の間には子どもはいませんでした。

その日、秋津は教授に随行して、学会への出席のため、京都へ出張していました。新幹線で東京へ戻り、帰宅すると、なんと自宅には、妻と見知らぬ男の心中死体が――!

物語は、こんなショッキングな描写から幕を開けます。しかし、その後、視聴者からすれば、ちょっと意表を突かれる展開になっていきます。

妻の妹・佳代(秋吉久美子)が、一報を聞いてタクシーで秋津家に駆けつけました。そこには、すでに警察が来ていました。妻の遺書もあり、警察は現場の状況から、自殺と断定したようです。でも、そこには、妻と心中したはずの男・仁一(じんいち)の姿はありませんでした。秋津も警察に対して、妻はかつての流産を苦にして自殺したのではないかと証言。現場から“消えた男”がひとりいるはずなのに、そのことについては一切、触れようとしないのです。

佳代からすれば、確かに流産のことを気に病んでいたとはいえ、姉が自殺するなんて、想像もつかないことでした。佳代は前日に、姉の元気な声を電話で聞いているのです。むしろ佳代が気にしていたのは、夫である秋津が出張しているはずなのに、秋津家に他の誰かがいる気配が、電話の様子から感じられたことでした……。

姉は、夫の出張中に不倫をしていたのかもしれない。そして、その男と姉は心中を図ったのかもしれない。でも、だとすれば、その男はどこへ行ってしまったのか?

警察は警察で、秋津が自宅で妻の死体を発見してから、警察へ通報するまでの時間が異様に長かったことに疑問を抱いていました。秋津自身はその理由を、「あまりのことに茫然自失で、気がついたら時間が経っていた」と言っていたのですが……。

そして佳代は、姉が書いた遺書の内容にも疑問を持っていました。筆跡から、姉の文字であることには疑いの余地がなかったのですが、文面に「佳代さん」という表現があったのです。姉から「佳代さん」などと呼ばれたことは、佳代にはありませんでした。彼女の中で、少しずつ、疑惑が「ある確信」へと変わっていきました。そこで佳代は、妻を失ってしまった秋津のために、しばらく身のまわりの世話をしたいという名目で、秋津家で暮らし始めたのです。しかし、佳代が真相に迫ろうとしても、秋津は頑なに、口を閉ざすのみでした。いったい、“消えた男”はどこへ――?

今回は、あらすじを少し長めに書いてみました。ネタバレはもちろん、避けていますが、本作のキモとなるトリックを解く“ヒント”は入れてあります。このトリック、決して大掛かりなものではなく、誰でも日常レベルで可能なもの。本作をご覧になって、思わず膝を打つ方も多いのではないかと思います。

ただ、本作の最大の見どころは、トリックの解明部分ではありません。秋津と佳代の関係性の変化が、じっくりと描かれる点です。ここにこそ、名称・堀川監督の力量が表れていると言えるでしょう。秋津の妻役の高林由紀子さんのほか、刑事役で中条静夫さんも出演されていますが、物語の大半は、秋津と佳代の描写に割かれています。緒形拳さんと秋吉久美子さんという2大スターが演じる、なんとも言えない男女の関係に、貴方もきっと引き込まれていくはずです。

 

それでは、また次回へ。なお、11月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか、同じく『傑作推理劇場』1980年作品より、『尊属殺人事件』(原作:和久峻三/出演:辰巳柳太郎、浅茅陽子、片桐夕子ほか)も放送されます。『火曜サスペンス劇場』の1982年作品『たそがれに標的を撃て』(出演:菅原文太、日色ともゑほか/監督:鷹森立一)や、『土曜ワイド劇場』の同じく1982年作品『透明な季節』(出演:芦川誠、石橋蓮司、田村高廣、中野良子ほか/監督:藤田敏八)も久しぶりの放送ですね。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください!

 

文/伊東叶多

 

 

<放送日時>

『消えた男』

11月2日(土)14:00~15:00

11月23日(土)13:00~14:00

 

『尊属殺人事件』

11月2日(土)13:00~14:00

11月23日(土)14:00~15:00

 

『たそがれに標的を撃て』

11月9日(土)13:00~14:50

11月28日(木)11:00~13:00

 

『透明な季節』

11月16日(土)13:00~14:50

11月30日(木)13:00~14:50

2019年10月29日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第8回『魔少年』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、『傑作推理劇場』より、1980年作品『魔少年』をご紹介します。『傑作推理劇場』とは、1980年の夏期にテレビ朝日系の平日22時枠で2週間にわたって全10話が放送された、各回1時間のドラマシリーズです。原作として選ばれたのは、著名ミステリー作家による佳作ばかり。この試みは好評を呼び、翌1981年にも、同時期に全11話が放送されました。さらに1982年1月から4月にかけても、『春の傑作推理劇場』と題して、今度は毎週木曜夜9時枠で全11話を放送。各回の製作は東映をはじめ、松竹、三船プロダクションなどが手がけていました。

1980年と1981年の夏期、『特捜最前線』の放送に2週ずつブランクがあるのは、この『傑作推理劇場』が編成されていたためです。当時のテレビ界では、いまと比べて特番が少なかったため、22時台のドラマなどは年末年始を除いて休みなく毎週オンエアされていました。『特捜』スタッフは、この編成によって、わずかながらも貴重な「夏休み」がとれたのではないでしょうか。

 

さて『魔少年』です。原作は、森村誠一先生の短編。映像化を手がけたスタッフは、まず脚本が、東映の劇場映画を数多く担当してきた神波史男さん。本作の前年には、村川透監督の『白昼の死角』のほか、共同脚本で『総長の首』(監督:中島貞夫)、『その後の仁義なき戦い』(監督:工藤栄一)にも参加していました。そして監督は佐藤肇さん。映画では主にSFやホラーといったジャンルで活躍されましたが、テレビ『キイハンター』や『特捜最前線』でも、印象に残る傑作エピソードをいくつも世に送り出しています。音楽を、佐藤監督との相性が良い菊池俊輔さんが担当している点も注目ポイントでしょう。

 

東京都・板橋区にある「城西第五小学校」。あるクラスで、ガキ大将の大野くん(大栗清史)の行動が問題になっていました。往来の激しい道路で信号を無視する「横断遊び」などは、一つ間違えれば大事故につながるもの。優等生の息子・正夫(中越司)を持つ主婦・相良牧子(松尾嘉代)は、そんな大野少年の存在を苦々しく思っていました。

牧子の夫(名古屋章)は会社を経営しており、相良家は裕福な家庭でした。牧子は息子の教育にも力を入れており、若い家庭教師(荒谷公之)も雇っていましたが、正夫はなかなかクラスで1番の成績をとれませんでした。ただ、どの教科でも2位につけており、正夫は大野少年とは対照的に、クラスの人気者でもありました。

そんなある日、また大野少年がクラスで問題を起こしました。担任の教師(森本レオ)が問い詰めますが、本人は否定するばかり。いよいよPTAも学校に対して「然るべき対応」を求め始めます。しかし、一連の問題行動の裏には、誰も想像していなかった意外な真実が隠されていたのでした――。

 

1時間ドラマゆえ、実際の本編尺は45分程度。原作自体も短編に分類される作品ではありますが、本作の中身はギュッと詰まっています。2時間ドラマとしても通用する内容を1時間に凝縮している、といった感じでしょうか。キャストも豪華で、1シーンしか登場しないキャラクターたちにも注目していただきたいところです(これはこの時期の作品に共通の特徴とも言えますね)。

ネタバレを避けつつの表現になりますが、タイトルの<魔少年>とは誰を指すのか。何をもって<魔少年>とされるのか。そして「彼」が<魔少年>となってしまった原因とは、果たして何なのか……。ぜひ、みなさんの目で確かめてみてください。

 

キャストについての補足。PTAのひとりとして大川栄子さんが出演されていますが、これは明らかに、佐藤肇監督との『キイハンター』からの縁でしょう。『キイハンター』では大川さんが演じる“ユミちゃん”をメインにした、ちょっと異色なホラー編やコメディ編を佐藤監督がよく手がけていました。こちらも東映チャンネルで放送中の作品なので、併せてチェックしていただけるとうれしいです。

優等生の正夫を演じたのは、中越司さん。子役を経て、後に舞台美術家としてデビュー。蜷川幸雄作品の舞台美術を多く担当し、高い評価を受けました。「大映ドラマ」などで活躍した女優・比企理恵さんの夫でもあるそうです。

このほか、敢えて詳しくは書きませんが、<サイボーグ009><西部警察><王貞治選手><ワールドスタンプブック><ダイデンジン(電子戦隊デンジマン)><大鉄人17(ワンセブン)>などのワードを頭に入れて視聴すると、一部の世代の方は、より本作をディープに楽しめることでしょう。まぁ、『西部警察』の部分については、「そこは『西部~』じゃなく『特捜最前線』にするべきでしょ!」とツッコミを入れたくなってしまうのですが、クライマックスでの「ある展開」への布石だと考えると、確かに『西部警察』が正解だったのかもしれません。う~む、作品を観ないとなんのこっちゃ分からない文章になってしまい、ひじょうに申し訳ないのですが、ご覧になれば、「なるほど、コイツはこのことが言いたかったのね」と、ご理解いただけるはずです……。

なお『魔少年』は後に、『土曜ワイド劇場』枠でも1985年に映像化されます。こちらも東映の製作なので、いずれ両作を見比べる機会がめぐってくるのを期待しつつ――。

 

それでは、また次回へ。なお、10月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか、同じく『傑作推理劇場』1980年作品より、『殺意』(原作:高木彬光、出演:坂口良子、佐分利信ほか、監督:野田幸男)も放送されます。『土曜ワイド劇場』の1980年作品『映画村殺人事件』(原作:山村美紗、出演:田村正和、夏純子、西村晃ほか、監督:中島貞夫)も久しぶりの放送ですね。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください!

 

文/伊東叶多

 

 

<放送日時>

『魔少年』

10月5日(土)13:00~14:00

10月12日(土)14:00~15:00

10月26日(土)13:00~14:00

 

『殺意』

10月5日(土)14:00~15:00

10月12日(土)13:00~14:00

10月26日(土)14:00~15:00

 

『映画村殺人事件』

10月19日(土)13:00~15:00

2019年9月24日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                    第7回『観覧車は見ていた』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、『火曜サスペンス劇場』の1984年作品『観覧車は見ていた』をご紹介します。『火サス』×東映としては、1986年から『女弁護士・高林鮎子』シリーズ(~05年)や『女監察医・室生亜希子』シリーズ(~05年/07年に『火曜ドラマゴールド』枠で完結編を放送)といった人気シリーズが誕生しましたが、それまでは、明確なシリーズ作品は存在しませんでした。本作も、そんな時期に放送された1本。7月に放送した『夕陽よ止まれ』(83年)に続き、丹波哲郎さんが渋みのある落ち着いた演技で魅せてくれた作品です。原作は、阿刀田高先生の『街の観覧車』。これは短編集なのですが、そのうちの「水ぬるむ」と「雲どり模様」の2本をベースに、映像化にあたって大胆にアレンジされています。脚本を担当したのは、丹波さんのテレビでの代表作と言える『キイハンター』(68~73年)や『Gメン’75』(75~82年)でメインライターを務めていた高久進先生でした。そして、監督も『Gメン』を第1話から手がけた鷹森立一監督ということで、ある意味、『Gメン』ファンなら見逃せない作品と言えるでしょう。

陶芸家で、未亡人の山本久枝(市毛良枝)は、ある夜、男が女を川に投げ落とす瞬間を目撃しました。この情報を受け、城西署の牧田刑事(宮内洋)らが捜査を開始。容疑者の身柄を確保しますが、なぜか川からは女性が着ていた着物だけが発見され、遺体は見つかりませんでした。取り調べを受けた男は、女性と言い争いをしていたことは認めたものの、自分が殺したのではなく、女性が自ら川に身を投げたのだと主張。さらに、遺体が見つからないのは「女が鯉になったから」などと言ってのけるのでした。

事件現場の近くに最近、引っ越してきた初老の男・崎村兵吾(丹波哲郎)は、ひょんなことから知り合った久枝が、この奇妙な事件の目撃者だったことを知りました。いろいろと話すうちに、久枝のことが気になっていく崎村。一方の久枝は、佐久俊一(星正人)という男につきまとわれていました――。

『Gメン』ではスピーディーな展開で視聴者を惹きつけていた高久&鷹森コンビですが、本作では、久枝と兵吾の不思議な交流をじっくりと描き、物語に奥行きを与えています。また『キイハンター』を思わせるような、高久脚本特有の“どんでん返し”も健在。視聴者の予想を裏切りつつも、期待は裏切らないといったところに、プロフェッショナルな手腕を感じます。

さて、本作のタイトルは、もともとは原作からのインスパイアだったのでしょうが、さらに深い意味が込められています。イメージとしては、「観覧車から見えるところで犯罪が行われていた」というもので、実際にそういった展開なのですが、本作では、その「観覧車」に人格が与えられていました。そう、本作の観覧車は「言葉を話す」のです。

と言っても、人間と会話するわけではありません。静かなるモノローグが、劇中でたびたび挿入されるのみです。それがどんな形で演出されているかは、映像でお確かめください。なお、観覧車の声を演じているのは飯塚昭三さん。東映のヒーロー作品に登場する悪役キャラクターを数多く担当されてきた声優さんですが、本作では実に落ち着いた語り口で、また違った魅力を感じさせてくれました。

登場する観覧車は、2002年に惜しくも閉園した「向ヶ丘遊園」のもの。劇中ではロケ地としても使用されており、「崎村が遊園地で孫と戯れる」シーンは、丹波哲郎さんのフィルモグラフィの中でも比較的、珍しいと言えるかもしれません。園内の様子をよく見ていると「エリマキトカゲ展」の告知が確認できたりして、時代を感じさせます。一連のシーンで、誘拐未遂事件を起こす女性役は中真千子さん。東宝映画『若大将』シリーズでは、加山雄三さんが演じる主人公の妹役を、長年にわたって演じられていました。

主演の市毛良枝さんは当時、昼帯ドラマと2時間ドラマの両方で、高い支持を得ていました。本作が放送された1984年は、各局で毎日のように2時間ドラマが放送されていた時期なのですが、調べてみると、市毛さんは月に1本のペースで、2時間ドラマの主演を務めていたのです。『火サス』では、9月放送の「見えない橋」に続いての主演(本作は12月放送)。本作では、崎村のイメージの中に、市毛さんが演じる久枝がたびたび登場するのですが、その一連での艶めかしさが、とりわけ印象に残ります。

2時間ドラマに欠かせない捜査陣の顔ぶれは、宮内洋さん、相馬剛三さん、きくち英一さん。丹波さんと宮内さんは「師弟共演」ですが、実際に顔を合わせるシーンは、意外に少なめでした。また、70~80年代のテレビドラマのファンの方々には、星正人さんや谷川みゆきさんの出演もうれしいところでしょう。星さんは昭和末期に引退されたそうですが、『大都会PARTⅢ』(78年)や『鉄道公安官』(79年)、『爆走!ドーベルマン刑事』(80年)といった人気ドラマで立て続けに刑事役を演じられており、その甘いマスクが忘れられないファンの方も多いことと思います。

それでは、また次回へ。なお、9月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか1984年の『土曜ワイド劇場』作品「授業参観の女」(出演:緒形拳、萬田久子、伊東四朗ほか/監督:野田幸男)も放送されます。こちらもぜひ!

文/伊東叶多

 

<放送日時>

『観覧車は見ていた』

9月14日(土)13:00~14:50

9月28日(土)13:00~14:50

『授業参観の女』

9月7日(土)13:00~14:50

9月21日(土)13:00~14:50

2019年8月14日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY   第6回『超高層ホテル殺人事件』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、『土曜ワイド劇場』の1982年作品『超高層ホテル殺人事件』をご紹介します。1982年の『土ワイ』は、1月2日の3時間スペシャル『天国と地獄の美女』からスタート。この作品は、天知茂さん主演の「明智小五郎」シリーズ(=江戸川乱歩の美女シリーズ)の中でも最大級のスケールで描かれた作品であるとともに、40年近く前のこととはいえ、よくこれが「お正月特番」としてオンエアされたものだと驚いてしまうような、ぶっ飛びまくった作品でした。ちょうど東映チャンネルでは『宇宙刑事ギャバン』も放送していますが、『ギャバン』がスタートする約2ヶ月前の叶和貴子さんの「熱演」も、『天国と地獄の美女』の伝説のひとつとなっています。

『超高層ホテル殺人事件』は、この『天国と地獄の美女』の翌週に放送された、新年第2弾作品。原作が森村誠一先生、主演が田村正和さんという強力ラインナップでした。

 

戦後の経済界の巨人・猪原(いはら)留吉の息子である杏平(田村正和)は、父の死後、イハラコンツェルンの2代目社長となりました。しかし、若き社長に対する風当たりは強く、都心の超高層ホテル「イハラネルソン」はアメリカのネルソン社の資金援助を受けて経営されるはずだったのですが、ネルソン社のトマス・ソレンセン(ライナー・ゲッスマン)は、その約束を反故にしようとします。激昂した杏平は激しい殴り合いの末、ソレンセンを完成したばかりのホテルの16階から突き落としてしまいました。間もなく、前夜祭レセプションが始まる時間だというのに――。

目撃者は、秘書課長の大沢(内田勝正)のみ。大沢は、「後はなんとかします」と言って杏平を送り出しました。やがて始まるレセプション。ところが、会場でホテルの全景が映し出されたとき、ホテルから人が転落したのです。レセプションに集まった客たちは驚愕しますが、最も驚いていたのは杏平でした。地上で発見された死体は、ソレンセンのみ。ソレンセンはホテルから「二度落ちた」のでしょうか……!?

 

なんとも、興味をそそる導入部です。この「二度落ちた」謎だけでも、新年第2弾作品の「格」としてはじゅうぶんな気がしますが、ここから、さらに事件は複雑化していくのです。考えてみれば、これだけなら「2代目社長の軽率な犯罪」で終わってしまうわけですが、ドラマは、戦後の日本の高度経済成長も背景に入れつつ、複雑な人間関係をこれでもかと抉るように描いていきます。ラスト数分までテンションが落ちない構成は、なかなか絶妙なものだったと言えるでしょう。原作の森村先生が元・ホテルマンだったというのは、推理小説ファンには有名な話。江戸川乱歩賞を受賞し、出世作となった「高層の死角」も本作と同様、ホテルを舞台にした作品でした。本作の原作は「高層の死角」の2年後である1971年に発表。ちょうど「京王プラザホテル」(地上47階)がオープンした年で、実にタイムリーな作品だったと言えます。映像化は、1976年の映画が最初。このときは、杏平役を近藤正臣さんが演じていました。

 

原作では、「ホテルの部屋から人が落ちた」事件がそもそもの発端となっているため、その「密室トリック」が主な焦点となるのですが、『土ワイ』版では、最初から犯行(事故に近いですが)の一部始終を視聴者に見せることで、この「密室トリック」の興味を捨てているのが、なんとも大胆です。杏平の父・留吉も、ドラマが始まる以前に亡くなっている設定なので、杏平という主人公の人物像が、主演である田村正和さんの演技に、より委ねられる形になっています。『古畑任三郎』シリーズで、犯人を「追いつめていく」側の田村さんのイメージが強いですが、逆の立場の田村さんを楽しめるのが、本作の大きなポイントの一つでしょう。また「追いつめていく」側の刑事役も、那須警部役の佐藤慶さんをはじめ、本作の放送後に『西部警察PART-Ⅱ』(82年)にレギュラー出演することになる井上昭文さんや、70年代に『刑事くん』シリーズ(71~76年)で「島さん」こと島崎刑事を演じていた守屋俊志さんといった、豪華なキャスティングとなっています。

この他のキャストは、杏平のかつての恋人で、杏平が結婚した後も不倫関係を続けている是成友紀子役に、結城しのぶさん。友紀子も結婚しているので、いわゆる「W不倫」ということになりますが、杏平も友紀子も「政略結婚」で引き裂かれているため、この2人の「深い愛」が、最後まで事件のカギとなっていきます。

杏平をサポートする木本専務役は、横内正さん。当時、横内さんは『土ワイ』の前の時間帯で放送されていた『吉宗評判記・暴れん坊将軍』(78~82年)で大岡忠相(越前)を演じていましたが、本作では、この大岡とはまた違った顔を見せています。

杏平のライバルにあたる浅岡役の西沢利明さん、レセプションに出席している大臣役の伊豆肇さんなどもハマり役。それぞれ、出番が少なめなのが惜しまれるところです。

 

なお、本作でも、先月ご紹介した『0計画(ゼロプラン)を阻止せよ』と同じく、特撮スタッフがクレジットされています。ホテルからの転落シーンの合成が該当場面ですが、さすがに現在の視点で観ると少々厳しい出来ながらも、当該シーンのビジュアルが視聴者に与えたインパクトは、決して小さくなかったと思われます。

そして、細かい点では、ラスト近くでなぜか、70年代の東映アクションドラマ『ザ・ボディガード』のテーマ曲アレンジBGMが流用されていたりしますので、このコラムを読んでくださっているような方々には、たまらないのではないかと……。

 

それでは、また次回へ。なお、8月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか、やはり森村誠一先生の原作による1984年の『火曜サスペンス劇場』作品「行きずりの殺意」(出演:浜木綿子、船越英一郎、松尾嘉代ほか)も放送されます。こちらもぜひ!

文/伊東叶多

<放送日時>

『超高層ホテル殺人事件』

8月10日(土)13:00~15:00

8月24日(土)13:00~15:00

 

『行きずりの殺意』

8月3日(土)13:00~14:50

8月17日(土)13:00~14:50

8月31日(土)13:00~14:50

2019年7月22日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第5回 『0計画(ゼロプラン)を阻止せよ』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、『土曜ワイド劇場』の1979年作品『0計画(ゼロプラン)を阻止せよ』をご紹介します。『土ワイ』はスタート当初(1977年7月)から1979年4月まで、2年近くの間はいわゆる「2時間ドラマ」でなく、「90分ドラマ」でした。本作は1979年3月の放送作品でしたが、特例的に2時間枠で放送。それだけ力が入れられていたことがうかがえます。

ある朝、ルポライターの左文字(黒沢年男)が目を覚ますと、留守番電話に友人のカメラマン・高田(加藤健一)からの切迫したメッセージが残されていました。しかし、“0計画(ゼロプラン)”“2月”というキーワードが聞き取れたのみで、他の詳しいことは何も分かりません。いったい高田は左文字に何を伝えたかったのでしょうか……。

その高田が死体で発見されたという報を受けて、左文字は旧知の新宿署・矢部警部(織本順吉)を訪ね、捜査に協力したいと申し出ますが、矢部はこれを拒否。左文字は当面、単独で高田の死の謎と、“0計画”&“2月”が意味するものを探っていくことになりました。

そのころ、伊豆七島の「神波島」(※架空の島名です)の診療所で、ひとりの医師が“0計画”の始動準備を終えようとしていました。医師の名は神崎(児玉清)。かつて国立中央総合病院の内科部長の座を目の前にしながら、派閥争いでライバル(佐原健二)に敗れた男でした。神崎による、あまりにも大胆な「復讐劇」が幕を開ける中、まだ新宿署も左文字も事件の真相に辿り着けずにいました……。

……というのが、本作の序盤のあらすじです。冒頭で、メインタイトルの後に表示されるサブタイトルは「総理大臣誘拐!!」。そう、「0計画」とは首相の誘拐によって多額の身代金を手に入れることなのですが、いったい神崎はどのような方法でSPたちにガードされた首相と接触するのか、また左文字や警察はどうやって犯人に辿り着くのか……といった点が本作の見どころとなります。

原作は西村京太郎先生の「左文字シリーズ」の1本で、1977年に刊行された「ゼロ計画を阻止せよ」。左文字が初登場したのは1976年の「消えた巨人軍」で、こちらは1978年に、すでに実写ドラマ化されていました。このときの左文字役は藤岡弘、さん。ヒロインの史子(水沢アキ)は矢部警部(大坂志郎)の次女で、左文字のフィアンセという設定になっていました。本作では、史子(長谷直美)は左文字の妹。ちなみに原作(左文字と史子はすでに夫婦となっている)では、左文字家の夫婦喧嘩の末に、事務所を飛び出した史子が、犯行グループを裏切って逃げてきた男から「0計画」のことを偶然に聞いてしまう、という展開でしたが、この部分は上記のあらすじのように変更されました。

さて、本作で特に光るのが、神崎役の児玉清さんです。児玉さんといえば、東宝の二枚目スターとして活躍した後、1970年代前半は『ありがとう』などの人気ホームドラマに立て続けに出演。1975年からは『パネルクイズ アタック25』の司会も務めていました。本作では、そんな当時のパブリックイメージを覆すような熱演。出世コースを外れてしまった男の悲哀と執念を見せつつ、インテリらしいクールさも兼ね備えた、的確な役作り。観ているうちに、児玉さんが演じる神崎のほうに、ついつい感情移入してしまいます。

また珍しいのは、特撮スタッフがクレジットされていることです。該当場面は、(ミニチュアの)ヘリコプターの爆発シーン。ダイナマイト爆破のシーンでは、東映の子ども向け特撮番組からのライブラリー(流用)・フィルムも使用されているようです。特撮監督としてクレジットされているのは矢島信男さんと佐川和夫さん。いずれも日本の特撮映像界の大御所です。なお、全くの偶然でしょうが、本作の放送日(1979年3月3日)は、スーパー戦隊シリーズに初めて「巨大ロボット」が登場した『バトルフィーバーJ』第5話「ロボット大空中戦」が放送された日でもありました。この作品の特撮監督も、矢島さんと佐川さんが連名で手がけています。

そして、ドラマファンはやはり本作でも、多彩なバイプレーヤーたちの登場に目を奪われることでしょう。「影の長老」と呼ばれる、政界の黒幕役の内田朝雄さんなどは、まさにハマり役。その他の政界関係者たちに扮するのも、「おなじみの顔ぶれ」と言えるベテラン陣です。若手(当時)では、神崎の計画に協力する共犯者として片桐竜次さん、辻萬長さん、風戸佑介さんが出演。風戸さんは本作の後、早々に引退されましたが、片桐さんは『相棒』シリーズで、辻さんは『いだてん』や『なつぞら』などのドラマで、近年も活躍されていますね。

それでは、また次回へ。なお、7月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか、1983年の『火曜サスペンス劇場』作品である「夕陽よ止まれ」(出演:丹波哲郎、野際陽子、紺野美沙子ほか)も放送されます。時期的には、長寿番組となった『Gメン』シリーズを終えたころの丹波さんが、『Gメン』の“ボス”とは異なるイメージの主人公を好演した作品で、味わい深い演技を見せてくれています。こちらもぜひ、ご覧になってみてください!

文/伊東叶多

<放送日時>

『0計画(ゼロプラン)を阻止せよ』

7月6日(土)13:00~14:50

7月20日(土)13:00~14:50

 

『夕陽よ止まれ』

7月13日(土)13:00~15:00

7月27日(土)13:00~14:50

 

2019年7月2日 | カテゴリー: その他
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