日別アーカイブ: 2020年4月14日

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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第15回 『華やかな死体』

不安な日々が続く中、みなさまはいかがお過ごしでしょうか……。

かつて、「♪なんでもないようなことが~」というフレーズが印象的なヒット曲がありましたが、まさに「当たり前」のことを普通にやれていた日常が懐かしくなっている今日この頃。人類が長いトンネルを抜けるのがいつの日になるのか分かりませんが、そう遠くない将来、また「当たり前」の日々を取り戻せることを祈りつつ――。

今月、ご紹介するのは1980年の「土曜ワイド劇場」作品より、9月の「競作推理シリーズ」第2弾として放送された『華やかな死体 赤い花は殺人予告』です。原作は、佐賀潜先生による第8回江戸川乱歩賞受賞作(戸川昌子先生が同時受賞)。作品が発表されたのは、1962年でした。佐賀先生ご自身は、検事、弁護士を経て作家となった人物。1970年に56歳の若さで逝去されたため、若い世代にはなじみのない存在かもしれません。筆者個人で言うと、「必殺」シリーズの『助け人走る』(73年)で、原案として「清兵衛流極意~明治泥棒物語~」という作品がクレジットされているのですが、その著者が佐賀先生で、佐賀潜=「さがせん」という名前(ペンネーム)が印象に残っていた程度でした。とはいえ、60年代は小説のみならず法律入門書の類でもヒットを連発。もし70年代以降もご存命で、活躍を続けていれば……と悔やまれます。監督は、大映京都を経て、70年代以降はテレビドラマを中心に活躍している池広一夫さん。1990年にスタートした「土曜ワイド劇場」の『終着駅シリーズ』は、「土ワイ」が2017年に終了してからも継続しており、本年=2020年1月に放送された最新作(シリーズ第36作)も、池広監督が手がけました。昨年=2019年で90歳ということに驚かされます。なお、脚本の石松愛弘さんは、池広監督の義弟にあたります。

 

ある夜、食品会社「三協食品」の社長を務める柿本高信(相原巨典)が自宅で何者かに殺害され、連絡を受けた埼玉地検の検事・城戸明(竹脇無我)が現場へと急行しました。第一発見者は、柿本の息子である富美夫(織田あきら)。凶器は現場にあった青銅の花瓶と思われ、犯人のものらしき指紋も残されていたことから、事件は遠からず解決するだろうというのが、捜査関係者の見込みでした。

やがて、埼玉県警・浦川署の津田刑事(織本順吉)の丹念な捜査もあって、かつて柿本の秘書を務めていたが、柿本の妻・みゆき(赤座美代子)と不倫関係になったことがバレて秘書をクビになり、現在は金融会社「深町商事」の営業部長となっている人見十郎(長谷川明夫)が有力容疑者として浮かび上がりました。津田刑事は指紋のみならず、毛髪などの証拠も慎重に押さえて、ついに人見は逮捕されました。

捜査の手続きなども問題なく、これで一件落着と思われました。担当検事の城戸は上司(内藤武敏)から、近いうちに栄転の話があると聞かされていたこともあり、より一層、この事件に力を入れて取り組んでいました。

ところが……人見の弁護人として、有名な大物弁護士・山室竜平(佐藤慶)がやって来たことから、風向きが変わり始めます。山室に依頼したのは、人見が働いていた深町商事の社長・深町源造(金子信雄)でした。山室クラスの弁護士が動き出したこと自体、埼玉地検側にとっては不可解でしたが、依頼主が深町だというのも謎でした。いったい。この事件を担当することで深町や山室に何のメリットがあるのか!?

そして、浦川地裁で始まった裁判では、事件関係者が次々と、取り調べ段階での証言を翻していきます。さらに、人見にとって有利な証言も次々と出てきました。料亭の女将・峯島たつ(弓恵子)や、花屋の女主人(吉野佳子)によるアリバイ証言などは、もはや決定的でした。どう考えても、犯人は人見に間違いないはずなのに……。

公判が重ねられた末、裁判長が述べた判決は、城戸たちにとって無情とも言えるものでした。

 

……と、ここまでストーリーを書いても、ここから先もきっと、面白く観られるはず。それだけしっかりした構成で、さすが法廷経験が豊富な佐賀先生の作品、という印象です。ただし、2時間ドラマとしての映像化にあたり、細部はかなり変更されている模様。原作では容疑者を絞るまでのプロセスにも紙数が割かれていますが、ドラマ版では、城戸VS山室の法廷勝負を際立たせるため、全体のバランスに手が加えられています。この改変は、成功していたと言えるでしょう。また、細かい点では、主人公・城戸のイメージも原作とドラマでは少々、異なっています。ドラマ版の城戸は演じるのが竹脇無我さんということもあり、最初から「頼れる」印象が強いのですが、そのことが逆に、後半で逆襲されていくくだりを印象づけているとも言えるので、この点も、巧い改変だったのではないでしょうか。

唯一、ラストについては、2時間ドラマというジャンルの「限界」を示しており、不満が残る視聴者も多いかもしれませんが、原作とはまた違った余韻が残るので、これはこれで「アリ」と言っておきたいです。正直なところ、あと10~15分くらい尺が欲しかったところですが……。

本作のキャストは、渋い実力派揃い。とりわけ、大物弁護士に佐藤慶さん、サラ金会社の胡散臭い社長に金子信雄さん、といったあたりは絶品です。こんな曲者が手を組んだら、正統派の二枚目にして美声の持ち主・竹脇無我さんもタジタジでしょう。

マニアックなポイントとしては、裁判での峯島たつの証言内容にご注目ください。ちょっと唐突な証言なので、思わず笑ってしまう方もいらっしゃるかも?

 

それでは、また次回へ。なお、5月の「違いのわかるサスペンス劇場」では本作のほか、1986年の『山村美紗サスペンス』より『死人が夜ピアノを弾く』(脚本・監督:中島貞夫/出演:松方弘樹、松尾嘉代、宅麻伸、西田健ほか)、1992年の『不思議サスペンス』より『姿のない尋ね人』(監督:崔洋一/出演:古尾谷雅人、黒田福美、内藤剛志ほか)も放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください!

文/伊東叶多

 

<放送日時>

『華やかな死体』

5月2日(土)13:00~15:00

5月16日(土)13:00~15:00

5月30日(土)13:00~15:00

 

『死人が夜ピアノを弾く』

5月9日(土)13:00~14:30

5月23日(土)14:00~15:30

 

『姿のない尋ね人』

5月9日(土)14:30~15:30

5月23日(土)13:00~14:00

2020年4月14日 | カテゴリー: その他