日別アーカイブ: 2021年6月28日

その他

チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                        第29回『六本木メランコリー』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1989年の『現代神秘サスペンス』作品『六本木メランコリー』をご紹介します。原作は、当コラムの第20回でご紹介した『花園の迷宮』、前回の『三階の魔女』と同じく、山崎洋子先生。『六本木メランコリー』は、1989年に発表された短編集『三階の魔女』に、表題作とともに収められていました。『現代神秘サスペンス』では第1話が『三階の魔女』でしたが、こちらの『六本木メランコリー』は、第4話として放送。第2話『青い髪の人魚』(製作:アズバーズ)と、第3話『人形と暮らす女』(製作:東宝)も同じく山崎先生の原作で、後者はやはり『三階の魔女』所収の作品でした。第1話の十朱幸代さんから小川知子さん、藤真利子さんと続いた主演女優は、今回は岩下志麻さん。監督は、当時まだスタートしたばかりだった『はぐれ刑事純情派』(88~05年)で第1シリーズからメインを務めていた吉川一義監督が担当しています。

 

倉田由紀(岩下志麻)は、広告制作会社で活躍するデザイナー。不動産業を営む夫(小坂一也)がいましたが、会社の同僚でディレクターの滝田和彦(原田芳雄)と不倫関係にありました。由紀の夫は、妻の不倫に気づいていましたが、離婚したいという妻の求めを頑なに拒否。それどころか、「滝田を交えて3人で会いたい」と由紀に告げるなど、滝田と真っ向から勝負するつもりで、由紀は悩んでいました。一方の滝田も、なかなか由紀が夫と離婚してくれないので、苛立ちをつのらせます。

そんなとき、会社に若いアシスタントとして、ショウコ(高橋ひとみ)が入ってきました。ショウコが滝田に憧れていることを知った由紀は、敢えて滝田とショウコを近づけようとします。いつしか、2人は男女の関係になっていました。しかしショウコは、滝田の心がずっと由紀のほうを向いていることに気づいてしまいます。悲しい恋愛を経験し、大人の女性へと成長したショウコは、自ら会社を去って行きました。

それから数年後、ショウコは由紀と再会。由紀から、夫や滝田との“その後”の話を聞きます。3人に、いったい何があったのでしょうか……。

 

実際の作品は、由紀とショウコの再会から始まります。この2人の関係性もあまり説明されないまま、物語は数年前の回想へと入っていくのですが、ある種“不親切”とも思える構成が、むしろ、本作に奥行きを与えていました。

岩下志麻さんと原田芳雄さん、といえば岩下さんの夫でもある篠田正浩監督の『はなれ瞽女(ごぜ)おりん』(77年)が思い出されます。盲目の旅芸人(=瞽女)と、下駄作りの職人の純愛物語。本作では、時代(放送当時は、まさにバブル真っ只中!)の最先端を行く男女を演じていますが、2人とも当時は40代後半にさしかかっており、大人の魅力を存分に感じさせてくれました。この2人と好対照を成すのが、2人よりは約20歳ほど若い、高橋ひとみさん。冒頭やラストで描かれる「現在」と、回想で描かれる「過去」のショウコは、滝田との恋愛を経て、かなりイメージが変わっており、高橋さんの演技力の高さが伝わってきます。ラスト、由紀とショウコが無言で見つめ合うシーンは、本作の白眉。2人の思いを言葉で説明せず、それぞれの表情に「託す」形にした演出と、2人の芝居は絶品でした。

物語のクライマックスは、ある一夜の出来事に集約されます。さまざまな思惑と、運命の悪戯が重なって起こったのは、仮に計画していたとしても、成功しなかったのではないかと思えるような、ひとつの「奇跡」といえる出来事でした。しかし、その「奇跡」は、誰かを幸せにしたのでしょうか。それとも……?

ちなみに、劇中で印象的な挿入歌となっているのは、TM NEWWORKが1987年にリリースしたアルバム「Self Control」に収録されている「Don’t Let Me Cry」。この曲は、アルバム制作当時、表題曲「Self Control」と、リードシングルの座を争っていたという逸話が残されています。

 

それでは、また次回へ。7月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第12回で採り上げた『死ぬより辛い』(監督:佐藤肇/出演:秋野暢子、松尾嘉代ほか)、1982年の『傑作推理劇場』より『ラスト・チャンス』(監督:小澤啓一/出演:原田芳雄、大谷直子ほか)、1987年の『現代恐怖サスペンス』より『向田邦子の鮒』(監督:吉川一義/出演:井上順、香山美子ほか)、1994年の『愛と疑惑のサスペンス』より『レベル7-空白の90日-』(原作:宮部みゆき/出演:浅野ゆう子、風間トオル、永作博美ほか)が放送されます。これらの作品群も、ぜひご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『六本木メランコリー』

7月2日 (金)19:00~20:00

7月16日(金)13:00~14:00

7月26日(月)20:00~21:00

 

『死ぬより辛い』

7月10日(土)15:00~16:00

 

『ラスト・チャンス』

7月2日(金)13:00~14:00

 

『向田邦子の鮒』

7月3日 (土)13:00~14:00

7月16日(金)14:00~15:00

 

『レベル7-空白の90日-』

7月9日 (金)13:30~15:00

7月30日(金)13:30~15:00

2021年6月28日 | カテゴリー: その他