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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第4回『女からの眺め』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、『火曜サスペンス劇場』(81~05年)において、1987年の正月第1弾作品として放送された「女からの眺め」をご紹介します。脚本は、NHK『天下御免』(71~72年)、『夢千代日記』シリーズ(81~84年)、『花へんろ』シリーズ(85~88年)などで知られる早坂暁。監督は、本作放送の翌年よりスタートした『はぐれ刑事純情派』(88~05年)で一貫してメイン監督を務め、唯一の劇場版も手がけた吉川一義。そしてキャストは文中で紹介していきますが、主演級がズラリと揃った豪華な布陣となっています。

総合病院の「聖カトリーヌ病院」で内科医を務める鶴見朝子(岡田茉莉子)はひそかに、病院の隣にある「三王デパート」の売上金20億円の強奪計画を立てていました。朝子が声をかけていた「共犯者」は、すべて女性ばかり――。

詐欺にあって大金を失った、看護師の波崎くに子(樹木希林)。妻子ある上司との不倫関係の末に捨てられた「三王デパート」経理部員・原まゆみ(川上麻衣子)。夫が事故死したシングルマザーで、乳癌のため余命宣告された芸者の元木英子(永島暎子)。舞台の人気女優でありながらも、やはり病のため、やがて脚を切断しなければならない麻生花絵(三ツ矢歌子)。かつて女郎屋にいた老婦人で、現在は聖カトリーヌ病院で清掃員を務める土井原玉代(加藤治子)。そして、モデルだが暴漢に襲われ、性病に感染した辻井ユキ(城源寺くるみ)。この6人に朝子を加えた7人がフルメンバーです。朝子自身もまた癌患者で、しかも母・カズエ(鈴木光枝)は認知症にかかっていました。

それにしても、女性ばかりで大金を強奪しようとは、なんとも大胆な計画です。しかし、朝子やくに子には、勝算がありました。

7人が目指すのは、計画を成功させて、都会を離れたユートピアで、ひっそりと生きること。決行日は12月15日。7人それぞれの明確な役割も決まりました。果たして、20億円の強奪はうまくいくのでしょうか? それとも……!?

 

……というわけで、プロット自体はシンプルながらも、ひじょうに興味をそそられるものです。さまざまな背景を持った7人の女性が、完全犯罪に挑む。ネタバレぎりぎりのことを書かせていただくと、女性陣のキャスティングが豪華すぎたせいでもないでしょうが、本作では、いわゆる「捜査関係者」にあたるキャラクターは、ほぼ出てきません。そんなヒント(?)から、展開を想像していただくのも面白いのではないでしょうか。

全体の構成としては、クライマックスの「犯行」からは、とてもスピーディーに描かれていきます。ドラマの中心を成すのは、犯行へ至るまでの7人の女性の関わりです。とりわけ中盤の「作戦会議」の一連は圧巻。なんといっても、岡田茉莉子をはじめとする「犯行グループ」の女優たちは、本来はそれぞれが主演を張れるレベルなのですから(ユキ役の城源寺くるみは「にっかつロマンポルノ」最晩年にデビューし、活躍していた若手女優。『アリエスの乙女たち』などテレビドラマの出演も多い)。

中でも、くに子役・樹木希林と玉代役・加藤治子のちょっとしたやりとりは、本作の良いフックとなっています。ご存知のように、このふたりは『七人の孫』(64~66年)や『寺内貫太郎一家』(74~75年)などでも共演。お互いを知り尽くした女優同士だけに、その「かけあい」の妙は抜群なのです。さらに、「犯行」の真っ只中においては、まゆみ役の川上麻衣子も体を張った熱演を見せます。当時20歳で、7人の中でも最も若かったのが彼女ですが、並み居るベテラン女優たちに負けない存在感を示しました。

他のキャストとしては、ユキを診察する女医・植村役に黒田福美、まゆみの上司で経理部長の平田役に浜畑賢吉、朝子の夫・和夫役に石山雄大、花絵がペットを入院させる犬猫病院の医師役に池田鴻、「三王デパート」の守衛役に相馬剛三、デパートの売上を受け取りに来る銀行員役に津山栄一、など。ちなみに池田鴻はアニメ『機動戦士ガンダム』(79~80年)の主題歌シンガーとしても知られますが、惜しくも本作が放送された翌年、48歳の若さで世を去っています。

劇中、ちょっと驚くのが、くに子の台詞で「有楽町三億円事件」に触れた箇所があることです。同事件が発生したのは1986年11月25日で、本作の放送の6週間前。少なくとも該当シーンの撮影は、この事件の発生後に行われていたわけで、2時間ドラマとしては、意外にタイトなスケジュールだったことがわかります。とはいえ、この台詞の存在は、特にリアルタイムの視聴者に対しては、効果を与えていたと言えるでしょう(同事件は、1988年4月に主犯格がメキシコで逮捕されたことで終結しました)。

最後に、本作の味わい深いタイトルについて。朝子の務める病院から犯行現場となるデパートが見えることや、女性だけによる犯罪計画であることが、もちろんタイトルの由来となっているのですが、作品をトータルで観ていると、その他にもタイトルに込められた意味がいくつも感じられます。「昭和」末期に企画された、2時間ドラマの秀作を存分にご堪能ください。

それでは、また次回へ。なお、6月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか、1981年の『土曜ワイド劇場』作品である「死刑執行五分前」(主演:若山富三郎、中村玉緒)も放送されます。こちらの原作は、戦前から売れっ子の脚本家として活躍し、1950年代の邦画全盛期に東映京都撮影所作品を数多く手がけて「比佐天皇」の異名をとった比佐芳武(1981年12月没)。脚本家としての活動は70年代前半までだったようで、本作はある意味での「遺作」と言えるかもしれません。「女からの眺め」と併せ、ご覧になってみてください!

文/伊東叶多

 

<放送日時>

『女からの眺め』

6月8日(土)13:00~

6月22日(土)13:00~

6月25日(火)22:00~

 

『死刑執行五分前』

6月1日(土)13:00~

6月15日(土)13:00~

6月29日(土)13:00~

2019年5月21日 | カテゴリー: その他