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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                    第7回『観覧車は見ていた』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、『火曜サスペンス劇場』の1984年作品『観覧車は見ていた』をご紹介します。『火サス』×東映としては、1986年から『女弁護士・高林鮎子』シリーズ(~05年)や『女監察医・室生亜希子』シリーズ(~05年/07年に『火曜ドラマゴールド』枠で完結編を放送)といった人気シリーズが誕生しましたが、それまでは、明確なシリーズ作品は存在しませんでした。本作も、そんな時期に放送された1本。7月に放送した『夕陽よ止まれ』(83年)に続き、丹波哲郎さんが渋みのある落ち着いた演技で魅せてくれた作品です。原作は、阿刀田高先生の『街の観覧車』。これは短編集なのですが、そのうちの「水ぬるむ」と「雲どり模様」の2本をベースに、映像化にあたって大胆にアレンジされています。脚本を担当したのは、丹波さんのテレビでの代表作と言える『キイハンター』(68~73年)や『Gメン’75』(75~82年)でメインライターを務めていた高久進先生でした。そして、監督も『Gメン』を第1話から手がけた鷹森立一監督ということで、ある意味、『Gメン』ファンなら見逃せない作品と言えるでしょう。

陶芸家で、未亡人の山本久枝(市毛良枝)は、ある夜、男が女を川に投げ落とす瞬間を目撃しました。この情報を受け、城西署の牧田刑事(宮内洋)らが捜査を開始。容疑者の身柄を確保しますが、なぜか川からは女性が着ていた着物だけが発見され、遺体は見つかりませんでした。取り調べを受けた男は、女性と言い争いをしていたことは認めたものの、自分が殺したのではなく、女性が自ら川に身を投げたのだと主張。さらに、遺体が見つからないのは「女が鯉になったから」などと言ってのけるのでした。

事件現場の近くに最近、引っ越してきた初老の男・崎村兵吾(丹波哲郎)は、ひょんなことから知り合った久枝が、この奇妙な事件の目撃者だったことを知りました。いろいろと話すうちに、久枝のことが気になっていく崎村。一方の久枝は、佐久俊一(星正人)という男につきまとわれていました――。

『Gメン』ではスピーディーな展開で視聴者を惹きつけていた高久&鷹森コンビですが、本作では、久枝と兵吾の不思議な交流をじっくりと描き、物語に奥行きを与えています。また『キイハンター』を思わせるような、高久脚本特有の“どんでん返し”も健在。視聴者の予想を裏切りつつも、期待は裏切らないといったところに、プロフェッショナルな手腕を感じます。

さて、本作のタイトルは、もともとは原作からのインスパイアだったのでしょうが、さらに深い意味が込められています。イメージとしては、「観覧車から見えるところで犯罪が行われていた」というもので、実際にそういった展開なのですが、本作では、その「観覧車」に人格が与えられていました。そう、本作の観覧車は「言葉を話す」のです。

と言っても、人間と会話するわけではありません。静かなるモノローグが、劇中でたびたび挿入されるのみです。それがどんな形で演出されているかは、映像でお確かめください。なお、観覧車の声を演じているのは飯塚昭三さん。東映のヒーロー作品に登場する悪役キャラクターを数多く担当されてきた声優さんですが、本作では実に落ち着いた語り口で、また違った魅力を感じさせてくれました。

登場する観覧車は、2002年に惜しくも閉園した「向ヶ丘遊園」のもの。劇中ではロケ地としても使用されており、「崎村が遊園地で孫と戯れる」シーンは、丹波哲郎さんのフィルモグラフィの中でも比較的、珍しいと言えるかもしれません。園内の様子をよく見ていると「エリマキトカゲ展」の告知が確認できたりして、時代を感じさせます。一連のシーンで、誘拐未遂事件を起こす女性役は中真千子さん。東宝映画『若大将』シリーズでは、加山雄三さんが演じる主人公の妹役を、長年にわたって演じられていました。

主演の市毛良枝さんは当時、昼帯ドラマと2時間ドラマの両方で、高い支持を得ていました。本作が放送された1984年は、各局で毎日のように2時間ドラマが放送されていた時期なのですが、調べてみると、市毛さんは月に1本のペースで、2時間ドラマの主演を務めていたのです。『火サス』では、9月放送の「見えない橋」に続いての主演(本作は12月放送)。本作では、崎村のイメージの中に、市毛さんが演じる久枝がたびたび登場するのですが、その一連での艶めかしさが、とりわけ印象に残ります。

2時間ドラマに欠かせない捜査陣の顔ぶれは、宮内洋さん、相馬剛三さん、きくち英一さん。丹波さんと宮内さんは「師弟共演」ですが、実際に顔を合わせるシーンは、意外に少なめでした。また、70~80年代のテレビドラマのファンの方々には、星正人さんや谷川みゆきさんの出演もうれしいところでしょう。星さんは昭和末期に引退されたそうですが、『大都会PARTⅢ』(78年)や『鉄道公安官』(79年)、『爆走!ドーベルマン刑事』(80年)といった人気ドラマで立て続けに刑事役を演じられており、その甘いマスクが忘れられないファンの方も多いことと思います。

それでは、また次回へ。なお、9月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか1984年の『土曜ワイド劇場』作品「授業参観の女」(出演:緒形拳、萬田久子、伊東四朗ほか/監督:野田幸男)も放送されます。こちらもぜひ!

文/伊東叶多

 

<放送日時>

『観覧車は見ていた』

9月14日(土)13:00~14:50

9月28日(土)13:00~14:50

『授業参観の女』

9月7日(土)13:00~14:50

9月21日(土)13:00~14:50

2019年8月14日 | カテゴリー: その他