今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、先月に続いて『傑作推理劇場』より、1981年作品『暗い穴の底で』をご紹介します。『傑作推理劇場』の詳細については、当コラムの第8回をご参照ください。ちなみに、今月放送される『傑作推理劇場』のもう1作は、同じく1981年作品の『異人館の遺言書』。原作が和久峻三先生、主演がフランキー堺さん、春川ますみさん……と言うと、テレビドラマに詳しい人なら誰もが、『赤かぶ検事奮戦記』シリーズ(80~92年/松竹)を思い浮かべるでしょうが、全く同じ座組みであるものの、こちらはまぎれもなく東映作品です。いずれも甲乙つけがたい出来なのですが、当コラムでは敢えて『暗い穴の底で』を採り上げさせていただきます。
『暗い穴の底で』の原作は、芥川賞作家の菊村到先生。政治評論家で、映画化もされた『小説吉田学校』の作者としても知られる戸川猪佐武さんの弟にあたります。本作の脚本を手がけた長坂秀佳さんが、後に映画版『小説吉田学校』(83年)の脚本にも関わっているのは、奇しき縁と言えるかもしれません。
プロデューサーは高橋正樹さん&白崎英介さん(テレビ朝日)と深沢道尚さん(東映)。監督は天野利彦さんです。高橋P&深沢P、そして天野監督と長坂さんとくれば、これはもう『特捜最前線』(77~87年)ですね。もともと『傑作推理劇場』は1980年と1981年の夏期、テレビ朝日の平日22時枠に特別編成(2週間)されたドラマシリーズで、その放送期間は、水曜夜22時枠だった『特捜』が休止となっていたのですが、『暗い穴の底で』は、まさにふだんは『特捜』が放送されている水曜日(1981年8月12日)に放送されたわけです。当時、『特捜』は放送5年目に入っており、人気もすっかり定着。中でも「脚本・長坂秀佳×監督・天野利彦」によるエピソードは、どれも高く評価されていました。『暗い穴の底で』に比較的、近い時期で言えば、放送200回記念の『ローマ→パリ縦断捜査!』前後編(1981年3月放送)が、長坂×天野コンビの作品。この名コンビを、高橋・深沢の両プロデューサーが、敢えて別作品で組ませたのが『暗い穴の底で』だったのです。
「大日本工業」で、将来の重役候補と目される若きエリート社員・宇佐見圭介(近藤正臣)は、あるトラウマを抱えていました。小学生のころ、彼は夏休みになると、叔母夫婦の家によく遊びに行っていました。それは、マリ子という年下の、可愛らしい女の子と会えるからでした。
あるとき、圭介はマリ子と一緒に、好奇心から古井戸へと入りましたが、自分の中から不意に湧き起こった性衝動に戸惑い、マリ子を置き去りにして、その古井戸から出て行ってしまったのです。そして翌日、再び古井戸へ行ってみると、なんと古井戸は土砂で埋まっていました。
いったい、マリ子はどうなってしまったのか。もしかしたら、マリ子が入っていたことが気づかれないまま古井戸は土砂で埋められ、そのままマリ子は死んでしまったのかもしれない――。怖くなって、それを確かめることもできないまま大人になった圭介は極度の「閉所恐怖症」になっていました。
そして、よりによって彼が直面している仕事は、超高層ビル専用の高速エレベーターの開発でした。このプロジェクトの責任者である彼は、当然ながらエレベーターの性能について顧客に説明する役目を担うのですが、深いトラウマを抱えた彼はエレベーターに乗ることができないのです。同僚の中には、圭介の「閉所恐怖症」に気づいている者もいました。このままでは、彼は出世のチャンスを逃してしまいます。
そこで圭介は「高石クリニック」という精神科の病院に通い始めました。やがて彼は、女医の高石美沙子(山口果林)と交際するようになります。美沙子は公私ともに圭介に寄り添い、彼のトラウマをなんとか取り除こうとしていました。
ところが、ある朝、新聞記事を読んだ圭介は驚愕します。「あの」古井戸から、白骨死体が発見されたというのです。死体は20年前に埋められたマリ子に違いないと思った圭介。美沙子はそんな圭介に対し、一種のショック療法として、古井戸へ行ってみることを勧めました。戸惑いながらも、幼き日の思い出の場所を訪れた圭介がそこで見たのは、当時の面影を残しつつ大人の女性へと成長した、マリ子の姿。そう、マリ子は生きていたのです。20年の時を経て、思いがけない再会を果たした圭介とマリ子は……。
……というのが、本作の前半のあらすじです。この後、圭介は20年前に古井戸とその周辺で起こった出来事の真相へと近づいていくことになりますが、それはあまりにも意外な顛末でした。『傑作推理劇場』の他の作品群と同じく、2時間ドラマではなく1時間ドラマだからこそ味わえる、スピード感のあるラストへの「畳みかけ」が見事です。
出演は近藤正臣さん、山口果林さんのほか、赤座美代子さん、天田俊明さん、根岸明美さん、谷村昌彦さん、井上昭文さんなど。谷村さんは、本作の放送の約2ヶ月後から『Gメン’75』にレギュラー入り。井上さんも本作の翌年から『西部警察PART-Ⅱ』にレギュラー出演しました。なお、脚本では主人公が勤める会社の社長が登場しており、伊豆肇さんがキャスティングされていましたが、完成作品では当該シーンがカットされているため、実際に撮影(出演)されたかどうかは不明です。
それでは、また次回へ。なお、1月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作と『異人館の遺言書』のほか、『土曜ワイド劇場』の1979年作品『渓流釣り殺人事件~殺意の三面峡谷~』(監督:工藤栄一/出演:緒形拳、池上季実子、夏樹陽子)、1984年作品『授業参観の女』(監督:野田幸男/出演:緒形拳、萬田久子、伊東四朗)、そして当コラムの第7回でご紹介した『火曜サスペンス劇場』の1984年作品『観覧車は見ていた』(監督:鷹森立一/出演:市毛良枝、丹波哲郎)も放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください!
文/伊東叶多
<放送日時>
『暗い穴の底で』
1月4日(土)19:00~20:00
1月11日(土)14:00~15:00
1月25日(土)11:00~12:00
『異人館の遺言書』
1月3日(金)19:00~20:00
1月11日(土)13:00~14:00
1月25日(土)12:00~13:00
『渓流釣り殺人事件~殺意の三面峡谷~』
1月4日(土)11:00~13:00
1月18日(土)13:00~14:50
『授業参観の女』
1月4日(土)13:00~14:50
1月7日(火)22:00~24:00
1月18日(土)11:00~13:00
『観覧車は見ていた』
1月8日(水)22:00~24:00
1月11日(土)11:00~12:50
1月25日(土)13:00~14:50