今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1985年の「火曜サスペンス劇場」作品より、『非行少年』をご紹介します。原作は、1978年に直木賞を受賞し、織田信長が主人公の「下天は夢か」など、多くの代表作を持つ津本陽先生。短編集「南海綺譚」(80年)や「前科持ち」(82年)には、和歌山市警の部長刑事・村野というキャラクターが登場するのですが、本作『非行少年』は「前科持ち」所収の一編「わくら葉が散った」を基にした作品でした。ドラマ化にあたり、物語の舞台は東京となり、村野刑事の所属は「渋谷南署」へと変更されています。
脚本は『Gメン75』や『キイハンター』、アニメ『マジンガーZ』などで知られる高久進さん。実は『Gメン』の一編「怪談・死霊の棲む家」(第273話)は、「南海綺譚」所収の「魔物の時間」を原作としていました。そして、この第273話を皮切りに、Gメンの立花警部(若林豪)が「長野県黒谷町」という架空の村を舞台に残虐な凶悪犯と対決していくという、俗称「黒谷町シリーズ」が始まり、『Gメン』後期を代表する企画として定着したのですが、このシリーズを手がけたのが高久さん(脚本)と小松範任監督でした。つまり、本作『非行少年』は、『Gメン』以来の高久さん(&小松監督)と津本先生の関係で成立した作品と言っても差し支えないのです。「黒谷町シリーズ」の名物(?)キャラ・望月源治(蟹江敬三)が持っていた「怖さ」も、そのままではないにせよ、本作で菅貫太郎さんが演じている島崎にも受け継がれているように思います。
渋谷南署の捜査課に勤務する部長刑事・村野(石立鉄男)は、中年にさしかかってから陽子(友里千賀子)と結婚しました。郊外の高層団地で、夫婦2人だけで暮らしていましたが、やがて陽子が妊娠。晴れて父親となる日を楽しみにしながら、日々の捜査に精を出していました。
ある日、渋谷南署に、2人の非行少年が連行されました。公園で浮浪者が殴り殺された事件の容疑者として……。ひとりは菅沼徹(坂井徹)。もうひとりは中出達也(吉田友紀)。達也の苗字に心当たりがあった村野は、道玄坂で「ひさご」という小料理屋を営んでいるという達也の母親に早速、会いに行きました。村野の想像通り、達也の母は彼がかつて愛した、中出美代子(岩井友見)でした。16年ぶりの、思いがけない再会。女手ひとつで達也を育ててきた美代子はいま、非行に走ってしまった達也に、手を焼いていました。そんな「美代ちゃん」の苦悩を知った村野は、達也をなんとかして更生させようと考え、証拠不十分で釈放の身となった達也をいきなり自宅へ連れて行きました。しかし、夫から何も詳しいことを聞いていない陽子は、達也にどう接すれば良いのか分かりません。そして達也自身も、なぜ刑事である村野がここまで自分と母親のことに肩入れするのか分からず戸惑いました。村野の家を出て、自分の家に帰った達也は、また大暴れ。「ひさご」の客たちも気分を悪くして、帰ってしまう始末です。これでは店を続けられないと嘆く美代子でしたが、達也に反省の色は感じられませんでした。
やがて、村野は達也に関する「ある事実」に突き当たります。衝撃を受けた村野刑事でしたが、その「事実」は、妊娠中の妻・陽子をも苦しめることになりました。一方、達也や徹といった渋谷の不良少年・少女たちを自らの子分のようにこき使っていたのは、かつて村野に逮捕された、やくざの島崎(菅貫太郎)でした。村野に恨みを抱く島崎は、達也の仲間のひとり・木口カヨ(桑田和美)に対し、「達也にシャブ(覚醒剤)を打ってこい」と命令します。達也を覚醒剤中毒にすることで、村野をも苦しめようと考えたのです。カヨは達也を呼び出し、2人は廃工場で会いましたが、その後、カヨは遺体で発見されました。容疑者となったのは、現場から急いで走り去った達也。彼は殺人を犯してしまったのでしょうか。村野は、犯人は達也ではないと信じ、必死で捜査を進めますが……。
一枚の病(わくら)葉が、周りの葉もダメにしてしまうように、ひとりの非行少年=達也の存在が、本来は無関係だったはずの村野家まで崩壊へと導いていく……。達也は決して病葉ではないと信じながらも、どんどん立場的に追い込まれていく村野刑事の姿が印象的です。村野役の石立鉄男さんは、1970~80年代のテレビドラマ界を代表する人気俳優。東映作品では「土曜ワイド劇場」の「三毛猫ホームズ」シリーズ(79~84年)などでも活躍されていました。シリアスからコメディまで、幅広くこなす石立さんですが、本作では自分の「青春」に決着をつけようとする中年刑事という役柄を熱く演じています。タイトルロールでもある非行少年・達也役は『俺はあばれはっちゃく』(79年)で主演だった、子役出身の吉田友紀さん。石立さん、そして友里千賀子さんとは、すでに『気まぐれ本格派』(77年)で共演経験があるので、3人のシーンを観て、既視感を抱く方も多いのではないかと思います。同様に、村野の上司にあたる滝口刑事役の内藤武敏さんも、前述の「三毛猫~」においても、石立さんが演じた主人公・片山刑事の上司役でした。
本作で、圧倒的な存在感を示すのが、島崎役の菅貫太郎さん。テレビ時代劇の名悪役としてのイメージが強い方ですが、今回は、いわゆる類型的な悪役キャラとは一線を画した役作りで、持ち前の演技力が存分に活かされていました。達也の不良仲間役は、坂井徹さんや桑田和美さんが演じています。本作の放送日の2日後にスタートしたのが、80年代の伝説的なドラマ『スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説』(85年)なのですが、坂井さんも桑田さんも『スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇』(86年)では、忍者役でゲスト出演していました。
村野が「渋谷南署」勤務ということで、80年代中盤の渋谷の街でロケが敢行され、貴重な映像となっています。一方で、冒頭とラストに登場する村野の自宅アパート付近は、板橋区高島平でロケ。高島平から渋谷というのは、現実で考えると、通勤経路としては決して便利ではないのですが、練馬区に撮影所(大泉)を持つ東映の作品では、高島平付近は現在でも、ロケ地として頻繁に使用されているのです。
今回も、あらすじ部分に登場しなかったキャストの顔ぶれを軽く紹介しておきましょう。村野の同僚刑事・平林役は大場順さん。本作の翌年より、「火曜サスペンス劇場」の人気シリーズ「監察医・室生亜季子」に、やはり刑事役で参加して、2007年のシリーズ終了まで皆勤しました。このほか、青木刑事に『科学戦隊ダイナマン』(83年)のメギド王子役で知られる林健樹さん。少年課の刑事には『特別機動捜査隊』の後期(74~77年)に矢崎班の谷山部長刑事役で出演していた和崎俊哉さんが扮しています。美代子の店「ひさご」で働く若い女性・春恵役を演じた愛田夏希さんは、本作の放送の2週間後より、『特捜最前線』にレギュラー参加。特命課の江崎婦警として、最終回(87年)まで出演されました。
それでは、また次回へ。なお、7月の「違いのわかるサスペンス劇場」では本作のほか、1984年の『火曜サスペンス劇場』より『沈黙は罠』(原作:夏樹静子/脚本:橋本綾/出演:香山美子、山本圭ほか)、1973年の『サスペンスシリーズ』より『人妻恐怖・地獄道路』(監督:降旗康男/出演:野際陽子、中丸忠雄ほか)、『現代鬼婆考・殺愛』(監督:竹本弘一/出演:千葉真一、志穂美悦子、野際陽子ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。
【7月の『刑事くん』(第2シリーズ)】
7月、新登場となるエピソードは第3話から第10話まで。その中から、第5話「青空の待つ日」(脚本:長坂秀佳/監督:竹本弘一/1973年5月14日放送)を紹介します。
有名作曲家の御園が、自宅で殺害されました。後頭部を何かで殴られたことが死因だと思われましたが、現場に凶器は残されていませんでした。そんな中、三神刑事(桜木健一)は部屋に飾られていた写真から、高価そうな青銅の置物が、部屋から消えていることに気づきます。御園家のお手伝いさん(原ひさ子)は、置物は少なくとも、殺人事件が発生する直前まで、部屋にあったはずだと証言しました。凶器はその置物である可能性が高くなりましたが、果たして犯人は誰なのでしょうか。宗方刑事(三浦友和)は、父親が殺されたばかりでショックを受けている娘・アケミ(麻丘めぐみ)にも、容赦なくアリバイを尋ねます。動揺するアケミ。容疑者として考えられるのは他に、御園の弟子であるマキハラ(沢木順)とヤベ(田辺進三)の2人がいましたが、彼らのアリバイは完璧で……。
第3話(郷ひろみ)、第4話(森昌子)に続く、当時の若手スターのゲスト出演エピソードです。麻丘さんは子役、モデルを経て1972年に歌手デビュー。その年末の「日本レコード大賞」では、最優秀新人賞を受賞していました。本作のラストで流れるのは、1973年1月にリリースされた3rdシングル「女の子なんだもん」。代表曲として知られる「わたしの彼は左きき」がリリースされるのは1973年7月なので、本作への出演当時は、まさにアイドル歌手としての人気が頂点に達しようとしていた時期だったと言えます。
そんな麻丘さんが演じるアケミは、どうやら、父親の弟子のひとりに対して、ほのかな思いを寄せていたようです。その人物が殺人容疑者として捜査線上に浮かんだとき、純朴な少女・アケミの心は? そして、完璧であるかに思われた容疑者のアリバイを、三神刑事はどのように崩すのでしょうか……。
麻丘めぐみさんの初々しさと可憐さは必見。また、三神刑事の捜査方法は「あっと驚く」もので、彼のまっすぐな性格そのものが、事件の謎を解いたと言っても過言ではないでしょう。マキハラを演じたのは後に劇団四季のミュージカルスターとして活躍することになる沢木順さん。近年も現役として活動中の沢木さんですが、映像作品への出演は珍しく、ブレイク前ゆえの、貴重なフィルムとなっています。本作と同時期には『ウルトラマンタロウ』主題歌のカバーバージョンを発表。こちらも、現在では「知る人ぞ知る」音源となっているようです。もうひとりの弟子・ヤベ役の田辺進三(後に「田辺宏章」へと改名)さんは、俳優のほか、1980年代には声優としても活躍されていました。
7月の『刑事くん』(第2シリーズ)ではこの他、第6話に松坂慶子さん、第10話に竹下景子さんがゲスト出演されています。どうぞ、お楽しみに!
文/伊東叶多
<放送日時>
『非行少年』
7月11日(土)14:00~15:50
7月25日(土)13:00~15:00
7月31日(金)20:00~22:00
『沈黙は罠』
7月4日(土)13:00~15:00
7月18日(土)14:00~16:00
7月30日(木)20:00~22:00
『人妻恐怖・地獄道路』
7月4日(土)15:00~16:00
7月9日(木)14:00~15:00
7月18日(土)13:00~14:00
『現代鬼婆考・殺愛』
7月11日(土)13:00~14:00
7月25日(土)15:00~16:00
『刑事くん』(第2シリーズ)
毎週月曜日18:00~19:00(2話ずつ放送)
再放送:毎週金曜日7:00~8:00
『刑事くん』(第1シリーズ)
毎週木曜日19:00~20:00(2話ずつ放送)