今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1983年1月に放送された「火曜サスペンス劇場」作品『女が見ていた』をご紹介します。横溝正史先生の長編推理小説にも同タイトルの作品がありますが、こちらは脚本家・池田一朗先生による完全オリジナル。池田先生は1984年からは時代小説家・隆慶一郎としての執筆活動がメインとなるため、本作は脚本家専業としては晩年の仕事ということになります。監督は『Gメン’75』(75年)で、第1話をはじめとする傑作エピソードを多く手がけた鷹森立一さんが務めています。
1982年も、間もなく終わろうとしていました。都心の大手企業の庶務課に勤務している真山京子(泉ピン子)は、とても見栄っ張りな女性。それゆえ上司や同僚たちからも嫌われていたのですが、本人は「どこ吹く風」で、全く気にしていませんでした。
仕事納めの日、京子は冬に似つかわしくない格好で出社します。どうやら、彼女は年末年始をニューカレドニアで過ごすことを、周囲に自慢したかったようです。課長(長沢大)をはじめとする庶務課の面々は、そんな京子のことが鬱陶しくて仕方ないのですが、係長(河原崎長一郎)だけは、京子に対して優しく接していました。
さて――ここから京子の旅行が始まる……と思いきや、彼女の発言はすべてウソでした。倹約家でもある京子にとっては、海外で散財するなんて、あり得ないこと。同僚たちに見栄を張りたかっただけで、年末年始はマンションに引きこもって暮らすことを決めていたのです。約1週間、外へ一歩も出なくて済むよう、準備を済ませた京子。管理人(正司花江)にまでウソをついて、彼女の孤独な正月休みがスタートしました。
ところが不運なことに、京子の部屋のテレビが故障してしまいます。本格的な休みの初日にして、京子はヒマを持て余すことになりました。そんなとき、彼女は隣の住人・桑田友子宛てに届いた荷物を、代わりに受け取っていたことを思い出します。それは望遠鏡でした。京子は出来心で、望遠鏡を使って向かいのマンションの「覗き」を開始。すると、ある部屋で激しい「家庭内暴力」が行われているのを目撃したのです。
この「家庭内暴力」は、やがて殺人事件へと発展しました。「覗き」行為によって目撃者となった京子は迷った末、匿名で警察に電話します。「家庭内暴力の末、父親が息子を殺した」と。しかし、これは京子の誤認でした。警察が、当の野沢家へ確認に行くと、母親(高田敏江)と、“殺された”はずの息子(長谷川裕二)が出てきたのです。
警察をからかった、単なるイタズラかと思われました。しかし、警察が帰った後、それまで平静を装っていた母親と息子は、動揺を隠しきれなくなりました。なぜなら、被害者が異なっているだけで、「殺人事件」は実際に起こっていたからです。「父親が息子を殺した」のではなく、事実はその逆でした……!
目撃者である主人公・京子が、その「見栄」のため、名乗り出られないという状況。これが見間違えでなければ、おそらく事件はここで解決していたのですが、誤認だったことで、事態は予想外の方向へ展開していきます。「見られた」母子としては「目撃者」を見つけ出したいわけですが、「見られる」可能性は限られていますから、早い段階で、母子は方法が「覗き」であると確信。しかも、年末年始ゆえ、母子がターゲットを定めるには、それほど時間がかかりませんでした。
ある意味で「自業自得」とも言える“恐怖の日々”を送ることになってしまった主人公を当時35歳の泉ピン子さんが好演。1980年代に入り、主演作も増えていたピン子さんですが、本作の放送から3ヶ月後にスタートしたNHK朝の連続テレビ小説『おしん』(83年)への出演により、押しも押されもしないトップ女優としての地位を完全に確立したと言えるでしょう。本作では、京子が事件を目撃するまでの描写に時間が割かれており、前半はピン子さんの「一人芝居」を観ているような感覚に陥りますが、むしろ、その構成が本作の独特な面白さを生んでいました。
息子を溺愛する母親役の高田敏江さんは、さまざまなテレビドラマで母親役を演じてきたベテラン。本作に近い時期で言えば、やはり『3年B組金八先生』第1シリーズにおける宮沢保(鶴見辰吾)の母親役が印象的です。2020年もNHK BSプレミアム『すぐ死ぬんだから』に出演されるなど、健在ぶりを示しています。登場が後半のため、ストーリー紹介部分では触れられませんでしたが、本作の刑事役は藤巻潤さんと木村元さん。藤巻さんは同時期、夜7時台のアクションドラマ『魔拳!カンフーチェン』(83年)にも出演されていました。
それでは、また次回へ。1月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第7回でご紹介した『観覧車は見ていた』(脚本:高久進/監督:鷹森立一/出演:市毛良枝、丹波哲郎ほか)、1981年の『火曜サスペンス劇場』より『ハムレットは行方不明』(原作:赤川次郎/監督:村川透/出演:宮崎美子、柴田恭兵ほか)、1984年の『土曜ワイド劇場』より『授業参観の女』(監督:野田幸男/出演:緒形拳、萬田久子、伊東四朗ほか)、1982年の『土曜ワイド劇場』より『透明な季節』(監督:藤田敏八/出演:芦川誠、石橋蓮司、中村嘉葎雄、中野良子、田村高廣、泉谷しげる、佐久田修ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。
【1月の『刑事くん』(第2シリーズ)】
1月、ついに『刑事くん』(第2シリーズ)も最終回(第55話)を迎えます――。
第55話「限りなき希望の道へ」(脚本:長坂秀佳/監督:竹本弘一)
三神刑事の上司・時村(名古屋章)宛てに、脅迫電話がかかってきました。その電話をとった三神は、時村を危険な目に遭わせるわけにいかないと、自ら時村になりすまして、電話の主が指定した場所へ向かいました。すると、そこで射殺事件が発生。殺された人物が三神(時村)と間違われて被害に遭ったことは明白でした。脅迫者はどうやら、本気で時村の命を狙っているようです。三神はこのまま、自分が時村の身代わりになって、脅迫者に立ち向かうことを決意しました。
宗方刑事(三浦友和)の捜査により、脅迫者の正体が判明したころ、三神は再び、呼び出しを受けて指定された場所へと向かっていました。経緯を知った時村は三神を死なせるまいと、必死で三神の行方を追います。しかし、その思いも及ばず、三神は凶弾に倒れたのでした。
「退職」で終わった第1シリーズに続き、第2シリーズは「殉職」で終わるのか? ぜひ、映像で結末をお確かめください。
1971年9月にスタートした第1シリーズは1年間にわたって続き、同じく桜木健一さんが主演の時代劇『熱血猿飛佐助』(2クール)を挟んで、第2シリーズも1年間の放送となりました。実に2年半(正確には2年8ヶ月)もの間、桜木さんはTBS月曜夜7時30分~8時の「ブラザー劇場」枠で、主演として活躍したわけです。「ブラザー劇場」から生まれたドラマ作品の中でも、屈指の人気を誇った『刑事くん』だけに、ここで終わってしまってはもったいないと、関係者の誰もが当時、思ったはず。と、なると第2シリーズの結末も想像がつきそうですが、ここでは敢えて、はっきり触れないでおくことにしましょう。
それにしても、『刑事くん』は今年で放映開始から50周年なんですね。そうすると、2022年には『熱血猿飛佐助』も50周年を迎えます。そろそろ観たいところなんですが、どうにかならないでしょうか……?
文/伊東叶多(Light Army)
<放送日時>
『女が見ていた』
1月8日(金)11:00~13:00
1月12日(火)20:00~22:00
1月26日(火)22:00~24:00
1月29日(金)13:00~15:00
『観覧車は見ていた』
1月15日(金)13:00~15:00
1月26日(火)20:00~22:00
『ハムレットは行方不明』
1月1日(金)13:00~15:00
1月19日(火)20:00~22:00
『授業参観の女』
1月9日(土)17:00~18:50
1月22日(金)13:00~15:00
『透明な季節』
1月8日(金)13:00~15:00
1月16日(土)17:00~19:00
『刑事くん』(第2シリーズ)
1月4日(月)18:00~18:30 最終回放送!
再放送:毎週金曜日7:00~8:00(2話ずつ放送/1月15日にて終了)