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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第30回『間違った死に場所』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1989年の『現代神秘サスペンス』作品『間違った死に場所』をご紹介します。原作は、1995年に「恋」で直木賞を受賞することになる小池真理子先生。本作は短編集「あなたに捧げる犯罪」(89年2月発行)に収められたうちの1本で、同じ短編集に収められた「妻の女友達」は、日本推理作家協会賞を受賞しました。さらに言うと、この「妻の女友達」は、『間違った死に場所』が放送された翌週、テレビ東京の『月曜・女のサスペンス』枠で映像化されました。直木賞の受賞前とはいえ、小池先生の作品が当時、注目を集め始めていたことがわかります。

脚本は、1985年からスタートした『スケバン刑事』シリーズで注目を集めた橋本以蔵さん。1988年に放送され、いわゆるトレンディドラマの元祖的な存在と位置づけられている『君の瞳をタイホする!』も橋本さんがメインライターでしたが、この作品でヒロインを演じたのが、本作の主演でもある浅野ゆう子さんでした。

1988年から1989年にかけて、浅野さんはフジテレビの『抱きしめたい!』や『ハートに火をつけて!』に主演。89年の10月クールからはTBS『雨よりも優しく』への主演が決まっていました。そんな状況下ゆえ、単発ドラマ、しかも1時間ドラマへの出演というのはかなり減っていたため、本作は貴重な1本といえるかもしれません。また音楽を、90年代に入ってから大ブレイクする大島ミチルさんが手がけている点も要チェックでしょう。

 

テレビで人気のキャスター・恩田(大出俊)が、愛人である山崎満美子(浅野ゆう子)に絞殺されました。しかし実際には、仕事に疲れきっていた恩田のほうから、満美子に「殺してくれ」と頼んだのでした。満美子はまず、恩田の正妻(野際陽子)に電話で報告し、そのうえで「いまから自首します」と伝えました。ところが、正妻はなぜか、満美子に「自首するな」と厳命。娘(室井滋)と娘婿(佐野史郎)を連れて、3人で満美子のところへやって来たのです。なんと恩田は、自分が自宅以外で死んだ場合は、遺産を家族には相続させないという、ちょっと変わった遺言を書いていたのでした。そのため、正妻たちにしてみれば、恩田が愛人の家で殺されたとなると、遺産が受け取れないという問題が発生するのです。

そのため、本来なら責められるべき満美子は、恩田の家族から全く責められませんでした。その代わり、満美子は恩田の死体を恩田の自宅に運ぶのを手伝わされます。満美子は、複雑な思いでした。自分が愛した人の死を、家族は悲しむどころか、遺産のことしか考えていないのです。満美子自身は、自首の覚悟もしていたというのに……。

ともあれ、死体は自宅へ運ばれ、家族も一安心。しかし、何か忘れてないだろうか……と考えたところ、大問題が残っていました。恩田は殺される前、満美子の家でブランデーを飲んでいたのです。警察が死体を解剖した際、恩田の家にはないはずのブランデーが胃の中に残っていることがわかれば、恩田の「死んだ場所」が疑われてしまう!それゆえ、恩田の娘がブランデーを取りに行くことになりました。これで、恩田の家にブランデーが運ばれれば、ちょっと歪な「完全犯罪」の成立です。恩田の家族にとってみれば、恩田が死んだ場所が「自宅」ということになりさえすれば、それで良いのです。もはや、恩田の家族にとっても不要な存在となった満美子は、失意の中、再び自首の準備を始めるのでした……。

ところが、警察に電話をかけても、つながりません。それどころか、夜の街は、とても騒がしいことになっていました。公衆電話に並ぶ人々、つながらない電話、サイレンをけたたましく鳴らしながら行き交う救急車や消防車……。そう、「何か」が起こったのです。その「何か」とは、満美子の運命を劇的に変えてしまう、誰も想像し得なかった出来事でした。

 

「不倫相手に殺される人気キャスター」という“つかみ”から入った本作は、なぜか家族が、被害者が死んだ“場所”にこだわるという意外な展開を見せます。そのシチュエーション自体が異様なので、前半は一周回ってコミカルな印象さえ受けます。家族の態度に呆気にとられる浅野ゆう子さんに対し、家族側を演じているのが野際陽子さん、室井滋さん、佐野史郎さんということで、90年代に入ったら、この4人を1時間の単発ドラマで揃えるのは困難だったことでしょう。室井さんは1988年にスタートした『やっぱり猫が好き』のヒットで、人気が出た直後(考えてみれば、この作品での役名も偶然、本作と同じく“恩田”レイ子でした)。野際陽子さんはもちろん『キイハンター』(68年)などへの出演で、すでに有名でしたが、再ブレイクを果たしたのは、佐野史郎さんと母子役で共演した『ずっとあなたが好きだった』(92年)でした。佐野さんが一躍、時代の寵児となったのも同作ですから、本作での4人の共演は、テレビドラマ史全体として捉えても、面白い事実と言えるでしょう。その後の『長男の嫁』(94年)、『長男の嫁2~実家天国』(95年)では、浅野さん、野際さん、佐野さんの3人が出演していました。

 

さて、本作の凄みは、終盤の「どんでん返し」にあります。前半の展開も意外性に満ちていたのですが、恩田家の面々の態度も、ヒロイン・満美子を演じる浅野ゆう子さんの抑えた演技も、すべてが一種の“フリ(前フリ)”でした。

本作を最後までご覧になって、「何ソレ?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに、決して「よくある」展開とは言えず、人間が生きているうちに一度出会う(直面するということではなく)かどうかという事態にメインの登場人物“全員”が巻き込まれるわけですから、これを「反則」と捉える、厳しい視聴者もおられるでしょう。

しかし……普通なら「なんとかして自分の罪を隠したい」と考えるところ、最初から最後まで「恩田への愛」を貫き、自分が逃げることなど一切、考えなかった満美子には、思いがけない未来が訪れました。逆に、最初から最後まで「遺産」のことしかアタマになかった恩田家の人々は……。

とにかく、本作については、騙されたと思って(?)一度、ご覧いただくことを特にオススメします。

 

それでは、また次回へ。8月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第13回で採り上げた『ステレオ殺人事件』(脚本:掛札昌裕/監督:小山幹夫/主演:秋吉久美子)、同じく第1回で採り上げた『現代鬼婆考・殺愛』(監督:竹本弘一/出演:千葉真一、志穂美悦子、野際陽子、柳永二郎ほか)、1973年の『サスペンスシリーズ』より『人妻恐怖・地獄道路』(監督:降旗康男/出演:野際陽子、中丸忠雄ほか)、1982年の『傑作推理劇場』より『妻よ安らかに眠れ』(出演:愛川欽也、畑中葉子ほか)が放送されます。これらの作品群も、ぜひご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

 

<放送日時>

『間違った死に場所』

8月3日(火)13:00~14:00

8月14日(土)19:00~19:50

8月31日(火)14:00~15:00

 

『ステレオ殺人事件』

8月10日(火)13:00~14:00

8月29日(日)14:00~15:00

 

『現代鬼婆考・殺愛』

8月3日 (火)14:00~15:00

8月24日(火)13:00~14:00

 

『人妻恐怖・地獄道路』

8月24日(火)14:00~15:00

8月31日(火)13:00~14:00

 

『妻よ安らかに眠れ』

8月10日(火)14:00~15:00

8月15日(日)12:00~13:00

2021年7月26日 | カテゴリー: その他