今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1986年の『火曜サスペンス劇場』作品『妻の疑惑』をご紹介します。原作は、『木枯し紋次郎』でも知られる笹沢左保先生の「夫と妻の時効」(84年)。このタイトルのほうが(原題ゆえ)当然ながら、作品の内容を端的に表しているのですが、ドラマ化にあたっては、原作にあった不倫の要素などを排したうえで、『妻の疑惑』と改題されて、主人公・雪絵の心情に、より深くスポットが当てられた印象です。放送は1986年1月7日ということで、同年の「初回」オンエア作品。1983年から順に大竹しのぶさん、小川知子さん、大原麗子さんが務めてきた『火サス』の「年間トップバッター」を、この年は浜木綿子さんが担いました。ちなみに、この前回放送にあたる1985年12月24日の『火サス』は、「全編生放送」というチャレンジで話題となった『たった独りのあなたのために』(脚本:今野勉/主演:岸本加世子)。翌週の大晦日には『火サス』の枠で、「年末時代劇スペシャル」の第1作『忠臣蔵』(2日目)が編成されていました。
倉本雪絵(浜木綿子)は、土地開発庁・課長を務める倉本洋平(井川比佐志)の妻。長女である花江(高松涼子)もすくすく育っており、幸せな日々を過ごしていました。ただし、倉本夫妻には本来、花江の兄にあたる長男・一郎がいました。この一郎は幼くして、不慮の事故死。雪絵の夢の中には、いまでも一郎が頻繁に出てきます。一郎への思いも含めて、花江を大切に育てていきたいと、雪絵は日々、花江に最大限の愛情を注いでいました。
そんなある日の夜、洋平が泥だらけになって帰ってきました。「同窓会」に出席するために熱海へ出かけていたはずの洋平でしたが、明らかに動揺しており、雪絵は「夫に何かがあった」と直感します。そして翌日、雪絵はニュースで、伊豆で「九条小太郎」という小学生が行方不明になったことを知ります。熱海と伊豆……もしかしたら夫は、この事件に関与したのではないのか? しかも夫は、雪絵に相談もなく、熱海に行くときにも使った車を売ってしまいました。「妻の疑惑」は、いよいよ募るばかりです。
静岡県警の島田刑事(速水亮)は、捜査を進める中で、江藤(深江章喜)という中年男性が、怪しい車を目撃していたことを突き止めました。江藤の証言で、その車の色が白だったこと、またナンバーの一部も記憶していたため、島田は条件に合う車の「アリバイ」を調査していきます。島田刑事が洋平の車に辿り着くのは、時間の問題でした。
洋平が不在中に、倉本邸へやってきた島田刑事は、雪絵から洋平が「熱海」へ行っていたこと、そして「車を突然売った」ことを聞き、手応えをつかみました。状況から言って、洋平が事件に絡んでいる可能性は、どう考えても高いのです。雪絵は、帰宅した洋平を問いつめますが、洋平は黙して語りません。ところが、洋平の友人・高畠(小林勝彦)の証言で、「熱海で同窓会があった」ことも、ウソだったと判明しました。いったい、洋平は妻にウソをついて、どこへ行っていたのでしょうか。また、洋平は小学生・小太郎くんの行方不明事件に関与しているのでしょうか。すべては、小太郎くんが発見されれば判明するのでしょうが、依然として、小太郎くんの消息は不明でした……。
さまざまな謎を孕みながら、静かに、しかし時に大胆に展開されていくストーリー。意図的に、あらすじからは省きましたが、小太郎の母である昌子(宮下順子)や、洋平とは癒着関係にある大手建設会社の社長・野沢剛造(川地民夫)といった人物が、物語に大きく絡んできます。夫に対して疑惑を抱く妻もまた、過去に息子を事故で失っていたという設定もポイント。後半では、花江が誘拐されるという事件まで発生し、最後の最後まで、目が離せないドラマとなっています。花江役の高松涼子さん(子役)は当時、NHK大河ドラマ『いのち』(86年)にも出演し、後には小林綾子さんや岸本加世子さんが引き継いでいく「岩田征子」の幼年期を演じていました。
それでは、また次回へ。11月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第4回で採り上げた『女からの眺め』(脚本:早坂暁/出演:岡田茉莉子、樹木希林、三ツ矢歌子、加藤治子ほか)、同じく第16回で採り上げた『運命の旅路』(出演:丘みつ子、高峰三枝子ほか)、1981年の『土曜ワイド劇場』より『死刑執行五分前』(出演:若山富三郎、中村玉緒、高岡健二ほか)、1983年の『土曜ワイド劇場』より『断線』(脚本:橋本綾/出演:松田優作、風吹ジュン、辺見マリほか)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。さらに12月からはいよいよ、東映テレビドラマ史を代表する「あの名作」も放送スタート予定です!!!
文/伊東叶多(Light Army)
<放送日時>
『妻の疑惑』
11月2日(火)11:00~13:00
11月30日(火)20:00~22:00
『女からの眺め』
11月24日(水)11:00~13:00
11月30日(火)11:00~13:00
『運命の旅路』
11月25日(木)11:00~13:00
『死刑執行五分前』
11月2日(火)13:00~15:00
11月23日(火)11:00~13:00
『断線』
11月12日(金)11:00~13:00