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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                                                                   第38回『児童心理殺人事件』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1989年(平成元年)の『木曜ゴールデンドラマ』作品より『児童心理殺人事件』をご紹介します。

『木曜ゴールデンドラマ』は、『火曜サスペンス劇場』と同じく、日本テレビ系列の2時間ドラマ枠でした。と言うより、スタートしたのは『火サス』よりも先。1980年の4月改編にて放送が開始され、当初は読売テレビ(大阪)と日本テレビ(東京)が交替で制作を担当していましたが、『火サス』が1981年の秋の改編でスタートすると、それ以降は読売テレビが単独で制作を手がけるようになりました。

第1回放送(1980年4月3日)作品は、水谷豊の主演による『熱中時代スペシャル 水谷教授の華麗な冒険』。海外ロケを大々的に敢行し、華々しくスタートしました。第3回は東宝映画の田中友幸プロデューサーが携わった最初で最後の2時間ドラマとなった『東京大地震マグニチュード8.1』。当時、裏番組には『ザ・ベストテン』というお化け番組がありましたが、『木曜ゴールデンドラマ』も安定した視聴率を稼ぐ番組となり、1992年の春の改編で終了するまで、12年にわたって続きました。その後、『ドラマシティ’92』『ドラマシティ’93』などを経て、1993年の秋の改編で「木曜夜10時」に登場した『ダウンタウンDX』は、間もなく放送開始から30年を迎えようとしています。

 

『児童心理殺人事件』は、1989年・真夏の放送。原作は森村誠一先生の「精神分析殺人事件」でした。これを脚色したのが、長坂秀佳さん。とはいえ、タイトルだけでなく、内容もほぼ「別物」と言えるような作品となっています。

当時、長坂さんは10年間にわたってメインライターを務めた『特捜最前線』が1987年の春に終了し、続いて昼帯ドラマ『華の嵐』(88年)の原作・脚本に着手しますが、序盤の脚本を執筆していた時期に局のプロデューサーと衝突して降板。この大ヒットドラマの「原作者」として名前は残ったものの、スケジュールが真っ白になってしまったため、今度は一定期間、脚本家を休業して「江戸川乱歩賞」に挑戦しました。

そして、ここで見事に賞を獲ってしまうのが、長坂さんのスゴさ。第35回「江戸川乱歩賞」を受賞した「浅草エノケン一座の嵐」の初版発行は1989年9月なので、『児童心理殺人事件』はおそらく、受賞作を書き上げ、応募してから書かれた、脚本家への「復帰作」のひとつだったと思われます。

 

ある夏の日。小学生の波島慎一くんが、セミを捕ろうとして団地のベランダによじ登りました。2階の部屋で黙々と仕事をしていた教師の中原桂介(角野卓造)は、ふとベランダのほうを見たとき、慎一くんと目が合ったのでビックリ。そして、その直後、慎一くんの姿が、桂介の視界から消えました。慎一くんは、どうやら転落してしまったようです。桂介がベランダに出て見下ろすと、倒れている慎一くんを囲む、少年たちの姿が。間の悪いことに、桂介は、その少年たちとも目が合ってしまいました。

周りの大人たちに事情を聞かれた少年たちは、「あのおじさん(=桂介)が『コラッ!』と怒鳴ったので、慎一くんはそれに驚いたので転落した」と証言。もちろん、桂介は怒鳴ってなどいないのですが、少年たちは彼らなりに、慎一くんが転落したことに責任を感じ、咄嗟に、現実ではない記憶を「作り上げた」のかもしれませんでした。こうして、桂介は窮地に立たされます。少年たちのところへ行って、「怒鳴ってなどいないじゃないか」と言い聞かせるのですが、それでも少年たちが証言を変えようとしないので、思わず怒鳴ってしまいました。これで、桂介への周囲の印象はさらに悪化。妻の不在をいいことに、桂介が部屋へ女性を連れ込んでいた、などという噂まで出始めました。

やがて、息子の草太を連れて信州へ行っていた桂介の妻・夏子(泉ピン子)が、夫が巻き込まれた「事件」のことを聞いて、帰ってきました。夫を信じる夏子は、誤解を解くために、独自で「事件」の調査を開始。当初、旗色が悪かった中原家ですが、夏子の辛抱強い聞き込みや推理もあって、この「事件」に秘められた意外な真相が見えてくるのでした……。

 

本作で描かれている事件のポイントは、「なぜ慎一くんが転落したのか?」にあります。この真相に、劇中の登場人物たちが辿り着くまでの絶妙な語り口は、さすがに長坂さんの脚本だけあって、凡百の2時間ドラマとは一線を画しています。

また、ある意味で「被害者」でもある「中原家」という家庭も、そして慎一くんの「波島家」も、それぞれ子育てにおいて深い悩みを抱えているという設定がドラマを引き締めていました。慎一くんの両親を演じているのは、辰巳琢郎さんと平淑恵さんです。

ところで、泉ピン子さんと角野卓造さんの「夫婦」というキャスティングには、誰もが既視感を抱くことでしょう。言うまでもなく、『渡る世間は鬼ばかり』です。この作品は、1990年の秋からスタートし、2011年まで断続的に全10シリーズを放送。その後も2019年まで、ほぼ毎年のペースでスペシャル版が放送されていました。『児童心理殺人事件』は『渡鬼』がスタートする約1年前の単発ドラマですが、放送時間が後の『渡鬼』と同じく「木曜夜9時」からだったことは、面白い偶然と言えるでしょう。『児童心理殺人事件』が放送された翌月、『木曜ゴールデンドラマ』にとって長年のライバルだった『ザ・ベストテン』が終了。TBSはこの後、「木曜夜9時」枠にドラマを編成し、最初のヒット作となったのが、1990年1月から放送された『HOTEL』でした。1988年の秋からはフジテレビも「木曜夜9時」枠で『とんねるずのみなさんのおかげです。』をスタートさせており、この枠は特に平成初期において、各局がしのぎを削る「激戦区」だったのです。

……それでは、また来月の当コラムにて、お会いしましょう!

 

<4月の『Gメン’75』>

4月が初回放送となるエピソードは、第31話から第38話。ついに、と言うか、早くもGメンの行動隊長・関屋警部補(原田大二郎)が殉職を遂げます。第33話「1月3日 関屋警部補・殉職」は、日本の刑事ドラマ史上、屈指の「殉職」編。クライマックス数分の、衝撃の演出に絶句してください。

そして、4月26日(火)~30日(土)の22:00~26:00は、【GWイッキ見!まだ間に合う!『Gメン’75』】と題し、第1話~第20話までが1日に4話ずつ、キャッチアップ放送されます。こちらもぜひ、お楽しみに。

さらに! オリジナル情報番組『ピンスポ!』では、初代「女性Gメン」として、強烈な印象を残した藤田三保子(当時:藤田美保子)さんが登場。「響圭子」を演じた日々の思い出を、熱く語ってくださいます。『Gメン』ファンのみなさんは必見です!!

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

【違いのわかる傑作サスペンス劇場/2022年4月】

<放送日時>

『児童心理殺人事件』

4月1日(金)19:00~21:00

4月7日(木)13:00~15:00

4月12日(火)21:30~23:30

4月19日(火)23:00~25:00

 

『恋人交換殺人事件』(原作:赤川次郎/出演:池上季実子、柴俊夫、名古屋章ほか)

4月2日(土)22:00~24:00

4月8日(金)13:00~15:00

4月13日(水)21:30~23:30

4月21日(木)13:00~15:00

 

『尊属殺人事件』(出演:辰巳柳太郎、浅茅陽子ほか)

4月19日(火)14:00~15:00

 

『消えた男』(監督:堀川弘通/出演:緒形拳、秋吉久美子、中条静夫ほか)

4月26日(火)14:00~15:00

2022年3月31日 | カテゴリー: その他