今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、先月と同じく1980年の『木曜ゴールデンドラマ』作品より、『悪霊の棲む館』をご紹介します。本作が放送されたのは8月21日。タイトルからもおわかりのように、夏の怪奇編として企画されました。ちなみに、前週の8月14日に放送されたのは『さすらいの甲子園』。企画・岡田晋吉さん、プロデュース・中村良男さん、脚本・鎌田敏夫さん、監督・斎藤光正さん、主演・中村雅俊さんと、名作ドラマ『俺たちの旅』(75年)の布陣で製作されました。共演は夏目雅子さんをはじめとして、柴田恭兵さん、高橋悦史さんほか。この作品とは違う意味での「夏らしさ」を目指したのが『悪霊の棲む館』でした。さて、どんなお話かと言いますと……。
28歳の尾形彩子(夏純子)は、深夜のラジオ番組のDJとして、高い人気を誇っていました。プライベートでは、番組ディレクターの天間(村野武範)と交際していましたが、仕事が充実している彩子は、まだ結婚などは考えていないようでした。
それは、彩子の過去にも関係があったのかもしれません。彩子は6年前、ある劇団の研究生として、女優を目指していました。そのころ、彩子が交際していたのは、同じ劇団にいた山崎一男(岸部一徳)という青年でしたが、山崎はある日、別の女性と心中。彩子のお腹には山崎の子どもがいましたが、彼女は堕胎手術を受けたのでした。
さらに遡れば、彩子は幼いころ、母(月丘千秋)に殺されかけたことがありました。父が事業に失敗して自殺したことを原因とした、母の衝動的な行為でした。
幸せからは程遠い人生を歩んできた彩子にとって、DJとしての人気は、成功への第一歩でした。しかし、そんなある日、彩子は番組宛てに届いた葉書の山の中に、幼い子どもの字で書かれた、奇妙な葉書が1枚あるのを発見しました。5~6歳くらいの子どもが書いたと思われる文面でしたが、彩子のことを「お母さん」と呼んでいます。まさか、堕胎したはずの子どもからの手紙……!? ひた隠しにしている過去の出来事ゆえ、知っている人は少ないはずなのに、いったいなぜ、こんな葉書が届いたのでしょうか。彩子は、この葉書を手にした日から、精神が不安定となり、仕事でも失敗が続いてしまいます。さらに、同じ子どもが書いたと思われる葉書が、またも届きました。そこにはなんと、自分の父親は「山崎一男」だと書かれていました。錯乱して倒れた彩子。彼女は休暇をとることになりました。
静養先に選んだのは、天間の別荘でした。束の間、仕事のことを忘れて楽しく過ごす彩子でしたが、天間が一日だけ、仕事で東京へ戻ることに。彩子の心に、不安がよぎります。そして、天間が不在になった途端、彩子の身の周りには、不可解にして奇妙な出来事が起こり続けるのでした。それは彩子の幻覚なのでしょうか? あるいは、何者かが彩子を狙っているのでしょうか!? 彩子はひたすら、天間の帰りを待ちましたが……。
……というわけで、ひとりの女性が恐怖によって破滅に近い状況にまで陥っていく姿を夏純子さんが熱演しています。夏さんといえば、1970年代を駆け抜けた人気女優。ジャンルを問わない活躍を見せ、幅広いファンを獲得していました。もし80年代も女優を続けていれば、特に2時間ドラマ全盛の時代にはトップスターに君臨していたのではないかと思いますが、残念ながら、1981年に結婚して引退されました。本作はキャリア末期の作品にあたりますが、この1年後に引退されるなんて、実に惜しい!とあらためて痛感します。
あらすじに登場しなかったキャストとしては、恐怖に怯えた彩子を助ける初老の男性・宮本に大滝秀治さん、その友人の医師に早川雄三さん。こんなところで、『特捜最前線』の船村刑事と、『特別機動捜査隊』の松木部長刑事が共演していました。2人が将棋に興じるシーンがあるのですが、これは大滝さんがプライベートで将棋が趣味だったため、演出に採り入れられたのではないかと思われます。
このほか、まだ当時、子役としてデビューしたばかりで、現在も女優として活躍中の長谷川真弓さんが、印象的な役柄で出演。ここでは役柄を敢えて書きませんが、あらすじをよく読んでいただければ、もしかしたら想像がつくかも……!?
監督は近年も水谷豊主演『無用庵隠居奉行』シリーズなどを手がけている吉川一義さん。1980年は他に意外なところで『電子戦隊デンジマン』にも「よしかわいちぎ」名義で参加されていました。脚本の「相里修」は、『特捜最前線』で脚本や監督を務めた藤井邦夫さんのペンネーム。東映側のプロデューサーにも、後に『特捜最前線』を担当される武居勝彦さんが名を連ねています。武居さん、藤井さん、大滝さんと来ると、大滝さんが演じる初老の男性・宮本の「正体」が気になってきますが……これもまた、観てのお楽しみということにしておきましょう。
物語は後半まで、かなりインパクトのあるビジュアルが続きますが、終盤の畳みかけるような展開に、ご期待ください。昭和の「テレビ映画」が好きな方には、「こんな作品もあったのか!」と、きっと喜んでいただけるだろうと思っております。
……それでは、また来月の当コラムにて、お会いしましょう!
<8月の『Gメン’75』>
8月が初回放送となるエピソードは、第65話から第72話。第65話「真夏の夜の連続女性殺人事件」などは、初回放送時も夏でしたし、この時期に観るにはぴったりです。ぜひ、ご期待ください!
文/伊東叶多(Light Army)
【違いのわかる傑作サスペンス劇場/2022年7月】
<放送日時>
『悪霊の棲む館』
8月2日(火)13:00~15:00
8月13日(土)11:00~13:00
8月26日(金)11:00~12:50
『大東京四谷怪談』(出演:鰐淵晴子、中島ゆたか、三橋達也)
8月1日(月)23:00~24:30
8月12日(金)11:00~12:30
8月25日(木)13:30~15:00
『ステレオ殺人事件』(主演:秋吉久美子)
8月5日(金)11:00~12:00
8月13日(土)5:00~6:00
8月22日(月)14:00~15:00
『妻よ安らかに眠れ』(脚本:山田正弘/主演:愛川欽也)
8月5日(金)12:00~13:00
8月16日(火)24:00~25:00
8月27日(土)5:00~6:00
『十万分の一の偶然』(監督:藤田明二/出演:田村正和、中谷美紀、岸本加世子)
8月1日(月)13:00~15:00
8月19日(金)11:00~13:00