おかげさまで、今回をもって「東映テレビドラマLEGACY」も1周年を迎えました。どれだけいるか分からない読者のみなさん、ありがとうございます。今回も、先月に続いて『傑作推理劇場』より、1981年作品『死ぬより辛い』をご紹介します。『傑作推理劇場』の詳細については、当コラムの第8回をご参照ください。
さて、この『死ぬより辛い』ですが、原作は「ミステリーの女王」と呼ばれ、惜しくも2016年に世を去った夏樹静子先生です。代表作『Wの悲劇』や『弁護士 朝吹里矢子』シリーズ、『検事 霞夕子』シリーズなどは映像化も度々なされているので、知らないという方のほうが少ないでしょう。1986年、1987年、1990年には関西テレビで『夏樹静子サスペンス』も放送。本作と同じ原作が『死ぬよりつらい』として、1987年に田中美佐子さんの主演で再映像化されました。
『傑作推理劇場』版の『死ぬより辛い』で、脚本を手がけたのは池田悦子さん。『悪魔の花嫁』などの作品で、マンガ原作者としての活躍のほうが知られていますが、もともとは脚本家で、『キイハンター』(68~73年)や『ザ・ガードマン』(65~71年)などの人気ドラマに参加されていました。70年代後半からは、ほぼ完全にマンガ原作者の仕事にシフトしたため、1981年の本作への脚本家としての参加は、かなりのレアケースだったと言えるでしょう。『キイハンター』や、その流れを汲む『バーディ大作戦』(74~75年)でもコンビを組んだことがある、佐藤肇監督の作品だったために、執筆が実現したのかもしれません。
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その佐藤肇監督は、本作の当時は『特捜最前線』(77~87年)に参加……と言いたいところですが、初年度にはメイン監督と言っても差し支えない活躍をしていたものの、3年目くらいからは本数が減り、結果的には1981年・春をもって番組を離れました。『特捜』においては、脚本家の大原清秀さんとの名コンビぶりが印象的で、「射殺魔・1000万の笑顔を砕け!」(第107話)や「ああ三河島・幻の鯉のぼり!」(第163話)など、ファンに人気の高いエピソードをいくつも手がけています。『傑作推理劇場』には、1980年の『魔少年』に続いての登板。『魔少年』については、すでに当コラムの第8回で詳述していますが、『傑作推理劇場』を代表する1本でした。そして『死ぬより辛い』も、一度観たら忘れられない、インパクト絶大な作品となっています――。
主婦の君子(秋野暢子)は、「昭栄鉄工」の工場で働く村上浩一(河原崎建三)と、職場恋愛を経て結婚しました。君子は結婚後に退職し、現在は生後4ヶ月の長女を含め、一家は団地で暮らしていました。少々手狭な団地ではありましたが、君子はじゅうぶん、幸せを感じていました。いずれは団地を出て、マイホームを手に入れられれば……。そんな夢を持てるだけでも、君子は満足だったのです。
しかし、そんな彼女の人生は、思いがけない「事故」によって急変してしまいます。ある日、君子は、長女のあゆみを寝かしつけて、そのまま商店街へと買い物に出かけました。夏の暑い時期だったため、窓は開けっ放しにしていました。そうしないと、あゆみが寝苦しくなると思ったからです。
ところが、天気が急変。雨だけでなく、強い風も吹いていたため、君子は急いで帰宅しました。幸い、あゆみはまだ目覚めておらず、君子はそのまま、夕食の準備に入りました。でも、あゆみはいつもと違い、なかなか起きません。気になった君子が部屋へ様子を見に行くと……なんと、あゆみの顔の上に、ベランダから風で飛んできたビニール袋が運悪くかかってしまい、あゆみは窒息していたのです。もし、帰宅したとき、すぐにこの異変に気づいていれば……! 時すでに遅く、君子がいくらあゆみを揺さぶっても、もう二度と、あゆみは目を覚ましませんでした。
やがて、浩一が帰宅。しかし君子には、この悲劇を夫に伝えることができませんでした。浩一のほうも酒を呑んできたらしく、すぐに就寝。絶望した君子は、このまま無理心中することも考えましたが、夫の洋服のポケットに入っていた一通の封筒が、君子に思いもよらない行動を起こさせることになるのでした。
冒頭の幸せそうな一家の様子から一転して、赤ん坊の窒息死という、衝撃の展開。ここで耐えられない気持ちになってしまう人も、いらっしゃるかもしれません。ちなみに筆者は、この作品を小学生時代にリアルタイムで観ていたのですが、窒息死のくだりの生々しい描写は、鮮明に記憶に残っていました。今回、このコラムを書くにあたって、ひと足早く再見させていただき、自分の記憶に(ほぼ)間違いがなかったことを確かめられましたが、同時に、こんなシーンをよくオンエアしていたなと、あらためて恐ろしくなった次第です。もちろん、いまなら、一連のシーンがどのような「トリック」で撮影されているかも分かるのでショックは少ないですが、当時のテレビ受像機のレベルを考えると、かなりの演出効果があったはず。秋野暢子さんの素晴らしい熱演もこのシーンのリアリティを高めていたと言えるでしょう。
さて、本作がすごいのは、ここからの展開です。とても優しかった夫・浩一の秘密とは? そして、そんな夫の「真実」を知った君子が実行に移したこととは……。赤ん坊のシーンでもし辛くなってしまったとしても、ぜひ最後まで、ご覧いただきたい作品です。『死ぬより辛い』というタイトルの絶妙さも、きっとお分かりいただけると思うので。
ちなみに、本作の劇伴音楽を担当したのは『キイハンター』などでおなじみ、また佐藤監督との仕事歴も長い菊池俊輔さん。劇中の「夏祭り」のシーンでは、当時すでに放送が始まっていたアニメ『ドラえもん』(79年~)の挿入歌「ドラえもん音頭」が流れるのですが、この曲も、菊池さんの作品だったりします。それにしても、この曲が流れる状況が状況なので、大山のぶ代さんの明るい歌声のミスマッチ感がハンパないです。当然ながら、これもまた見事な「演出」であり、主人公・君子の抱えた絶望感を際立たせていました。
それでは、また次回へ。なお、2月の「違いのわかるサスペンス劇場」では本作のほか、1982年の『春の傑作推理劇場』より『ラスト・チャンス』(出演:原田芳雄、大谷直子/東映チャンネル初放送)、1986年の『現代怪奇サスペンス』より『鏡の中の男』(監督:中島貞夫/出演:市毛良枝、前田吟)、1989年の『直木賞作家サスペンス』より『影の殺意』(監督:中原俊/出演:田中美佐子、高橋ひとみ)も放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください!
文/伊東叶多
<放送日時>
『死ぬより辛い』
2月1日(土)13:00~14:00
2月22日(土)13:00~14:00
2月24日(月)16:00~17:00
2月29日(土)14:00~15:00
『ラスト・チャンス』
2月1日(土)14:00~15:00
2月8日(土)13:00~14:00
2月15日(土)14:00~15:00
2月22日(土)19:00~20:00
『鏡の中の男』
2月15日(土)13:00~14:00
2月22日(土)14:00~15:00
『影の殺意』
2月8日(土)14:00~15:00
2月29日(土)13:00~14:00