かめぽん

チューもく!! 怪優から天下の副将軍、西村晃

会社の上司のO氏が、ぜったいに観るべしと言明されていたのが西村晃さん主演の「怪談せむし男」。ソフト化されていない貴重な作品。上司はB級ホラー映画が好きで、クリストファー・リーの吸血鬼シリーズや、半魚人の逆襲などのアメリカの懐かしきホラー映画の話で盛り上がれるのだが、この西村晃さんの「怪談せむし男」も絶賛。今月はその第二弾「怪談片目の男」も放映。再放送で「怪談せむし男」もあるので、2本見比べるにはもってこい。
西村さんといえば国民的TV番組の天下の副将軍役が思い浮かぶが(あとは劇場版ルパン三世のマモー役)、映画では様々な役をやられていた。本作のようなホラーな役を演じるかと思えば、かめぽんLOVEな「十三人の刺客」の渋い武士や「陸軍残虐物語」では鬼畜な上官など多様な姿を見せてくれる。
昔は怪優といわれた方が結構いた。伊藤雄之介さんや岸田森さん、殿山泰司さんなどクセ者がたくさんおられた。顔も個性的で、一度観たら忘れられない方々。
そんな方々も強面の役ばかりではなく、軽やかで、おかしみのある役もまた素晴らしかった。個性的なお顔が一気にキュートに見えるのも、その方々の演技力の賜だろう。
西村さんのせむし男と岸田さんの吸血鬼(個人的趣味、他社ですみません)を観て、暑い夏を乗り切りたい。

201908

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
夏といえば「スーパーヒーローMAX」。そして「ワンピース」大特集。国営放送の朝ドラで注目の東映動画の旧作も注目。「少年猿飛佐助(アニメ) 4Kレストア版」はかめぽんの大好きな作品。この作画監督は朝ドラではどなたの役かな〜などと想像してみるのも楽しい。セントラルアーツ特集では角川映画ヒロイン三人娘の「Wの悲劇」「早春物語」「いつか誰かが殺される」を放映。な、なつかしすぎる。錦之助さんに橋蔵さん、千恵蔵御大に健さん、文太さんなどなど、今月もスター目白押しです。

今月も、わくわくな東映チャンネルをお見逃しなく〜

2019年8月1日 | カテゴリー: かめぽん
その他

チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY   第6回『超高層ホテル殺人事件』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、『土曜ワイド劇場』の1982年作品『超高層ホテル殺人事件』をご紹介します。1982年の『土ワイ』は、1月2日の3時間スペシャル『天国と地獄の美女』からスタート。この作品は、天知茂さん主演の「明智小五郎」シリーズ(=江戸川乱歩の美女シリーズ)の中でも最大級のスケールで描かれた作品であるとともに、40年近く前のこととはいえ、よくこれが「お正月特番」としてオンエアされたものだと驚いてしまうような、ぶっ飛びまくった作品でした。ちょうど東映チャンネルでは『宇宙刑事ギャバン』も放送していますが、『ギャバン』がスタートする約2ヶ月前の叶和貴子さんの「熱演」も、『天国と地獄の美女』の伝説のひとつとなっています。

『超高層ホテル殺人事件』は、この『天国と地獄の美女』の翌週に放送された、新年第2弾作品。原作が森村誠一先生、主演が田村正和さんという強力ラインナップでした。

 

戦後の経済界の巨人・猪原(いはら)留吉の息子である杏平(田村正和)は、父の死後、イハラコンツェルンの2代目社長となりました。しかし、若き社長に対する風当たりは強く、都心の超高層ホテル「イハラネルソン」はアメリカのネルソン社の資金援助を受けて経営されるはずだったのですが、ネルソン社のトマス・ソレンセン(ライナー・ゲッスマン)は、その約束を反故にしようとします。激昂した杏平は激しい殴り合いの末、ソレンセンを完成したばかりのホテルの16階から突き落としてしまいました。間もなく、前夜祭レセプションが始まる時間だというのに――。

目撃者は、秘書課長の大沢(内田勝正)のみ。大沢は、「後はなんとかします」と言って杏平を送り出しました。やがて始まるレセプション。ところが、会場でホテルの全景が映し出されたとき、ホテルから人が転落したのです。レセプションに集まった客たちは驚愕しますが、最も驚いていたのは杏平でした。地上で発見された死体は、ソレンセンのみ。ソレンセンはホテルから「二度落ちた」のでしょうか……!?

 

なんとも、興味をそそる導入部です。この「二度落ちた」謎だけでも、新年第2弾作品の「格」としてはじゅうぶんな気がしますが、ここから、さらに事件は複雑化していくのです。考えてみれば、これだけなら「2代目社長の軽率な犯罪」で終わってしまうわけですが、ドラマは、戦後の日本の高度経済成長も背景に入れつつ、複雑な人間関係をこれでもかと抉るように描いていきます。ラスト数分までテンションが落ちない構成は、なかなか絶妙なものだったと言えるでしょう。原作の森村先生が元・ホテルマンだったというのは、推理小説ファンには有名な話。江戸川乱歩賞を受賞し、出世作となった「高層の死角」も本作と同様、ホテルを舞台にした作品でした。本作の原作は「高層の死角」の2年後である1971年に発表。ちょうど「京王プラザホテル」(地上47階)がオープンした年で、実にタイムリーな作品だったと言えます。映像化は、1976年の映画が最初。このときは、杏平役を近藤正臣さんが演じていました。

 

原作では、「ホテルの部屋から人が落ちた」事件がそもそもの発端となっているため、その「密室トリック」が主な焦点となるのですが、『土ワイ』版では、最初から犯行(事故に近いですが)の一部始終を視聴者に見せることで、この「密室トリック」の興味を捨てているのが、なんとも大胆です。杏平の父・留吉も、ドラマが始まる以前に亡くなっている設定なので、杏平という主人公の人物像が、主演である田村正和さんの演技に、より委ねられる形になっています。『古畑任三郎』シリーズで、犯人を「追いつめていく」側の田村さんのイメージが強いですが、逆の立場の田村さんを楽しめるのが、本作の大きなポイントの一つでしょう。また「追いつめていく」側の刑事役も、那須警部役の佐藤慶さんをはじめ、本作の放送後に『西部警察PART-Ⅱ』(82年)にレギュラー出演することになる井上昭文さんや、70年代に『刑事くん』シリーズ(71~76年)で「島さん」こと島崎刑事を演じていた守屋俊志さんといった、豪華なキャスティングとなっています。

この他のキャストは、杏平のかつての恋人で、杏平が結婚した後も不倫関係を続けている是成友紀子役に、結城しのぶさん。友紀子も結婚しているので、いわゆる「W不倫」ということになりますが、杏平も友紀子も「政略結婚」で引き裂かれているため、この2人の「深い愛」が、最後まで事件のカギとなっていきます。

杏平をサポートする木本専務役は、横内正さん。当時、横内さんは『土ワイ』の前の時間帯で放送されていた『吉宗評判記・暴れん坊将軍』(78~82年)で大岡忠相(越前)を演じていましたが、本作では、この大岡とはまた違った顔を見せています。

杏平のライバルにあたる浅岡役の西沢利明さん、レセプションに出席している大臣役の伊豆肇さんなどもハマり役。それぞれ、出番が少なめなのが惜しまれるところです。

 

なお、本作でも、先月ご紹介した『0計画(ゼロプラン)を阻止せよ』と同じく、特撮スタッフがクレジットされています。ホテルからの転落シーンの合成が該当場面ですが、さすがに現在の視点で観ると少々厳しい出来ながらも、当該シーンのビジュアルが視聴者に与えたインパクトは、決して小さくなかったと思われます。

そして、細かい点では、ラスト近くでなぜか、70年代の東映アクションドラマ『ザ・ボディガード』のテーマ曲アレンジBGMが流用されていたりしますので、このコラムを読んでくださっているような方々には、たまらないのではないかと……。

 

それでは、また次回へ。なお、8月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか、やはり森村誠一先生の原作による1984年の『火曜サスペンス劇場』作品「行きずりの殺意」(出演:浜木綿子、船越英一郎、松尾嘉代ほか)も放送されます。こちらもぜひ!

文/伊東叶多

<放送日時>

『超高層ホテル殺人事件』

8月10日(土)13:00~15:00

8月24日(土)13:00~15:00

 

『行きずりの殺意』

8月3日(土)13:00~14:50

8月17日(土)13:00~14:50

8月31日(土)13:00~14:50

2019年7月22日 | カテゴリー: その他
その他

チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第5回 『0計画(ゼロプラン)を阻止せよ』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、『土曜ワイド劇場』の1979年作品『0計画(ゼロプラン)を阻止せよ』をご紹介します。『土ワイ』はスタート当初(1977年7月)から1979年4月まで、2年近くの間はいわゆる「2時間ドラマ」でなく、「90分ドラマ」でした。本作は1979年3月の放送作品でしたが、特例的に2時間枠で放送。それだけ力が入れられていたことがうかがえます。

ある朝、ルポライターの左文字(黒沢年男)が目を覚ますと、留守番電話に友人のカメラマン・高田(加藤健一)からの切迫したメッセージが残されていました。しかし、“0計画(ゼロプラン)”“2月”というキーワードが聞き取れたのみで、他の詳しいことは何も分かりません。いったい高田は左文字に何を伝えたかったのでしょうか……。

その高田が死体で発見されたという報を受けて、左文字は旧知の新宿署・矢部警部(織本順吉)を訪ね、捜査に協力したいと申し出ますが、矢部はこれを拒否。左文字は当面、単独で高田の死の謎と、“0計画”&“2月”が意味するものを探っていくことになりました。

そのころ、伊豆七島の「神波島」(※架空の島名です)の診療所で、ひとりの医師が“0計画”の始動準備を終えようとしていました。医師の名は神崎(児玉清)。かつて国立中央総合病院の内科部長の座を目の前にしながら、派閥争いでライバル(佐原健二)に敗れた男でした。神崎による、あまりにも大胆な「復讐劇」が幕を開ける中、まだ新宿署も左文字も事件の真相に辿り着けずにいました……。

……というのが、本作の序盤のあらすじです。冒頭で、メインタイトルの後に表示されるサブタイトルは「総理大臣誘拐!!」。そう、「0計画」とは首相の誘拐によって多額の身代金を手に入れることなのですが、いったい神崎はどのような方法でSPたちにガードされた首相と接触するのか、また左文字や警察はどうやって犯人に辿り着くのか……といった点が本作の見どころとなります。

原作は西村京太郎先生の「左文字シリーズ」の1本で、1977年に刊行された「ゼロ計画を阻止せよ」。左文字が初登場したのは1976年の「消えた巨人軍」で、こちらは1978年に、すでに実写ドラマ化されていました。このときの左文字役は藤岡弘、さん。ヒロインの史子(水沢アキ)は矢部警部(大坂志郎)の次女で、左文字のフィアンセという設定になっていました。本作では、史子(長谷直美)は左文字の妹。ちなみに原作(左文字と史子はすでに夫婦となっている)では、左文字家の夫婦喧嘩の末に、事務所を飛び出した史子が、犯行グループを裏切って逃げてきた男から「0計画」のことを偶然に聞いてしまう、という展開でしたが、この部分は上記のあらすじのように変更されました。

さて、本作で特に光るのが、神崎役の児玉清さんです。児玉さんといえば、東宝の二枚目スターとして活躍した後、1970年代前半は『ありがとう』などの人気ホームドラマに立て続けに出演。1975年からは『パネルクイズ アタック25』の司会も務めていました。本作では、そんな当時のパブリックイメージを覆すような熱演。出世コースを外れてしまった男の悲哀と執念を見せつつ、インテリらしいクールさも兼ね備えた、的確な役作り。観ているうちに、児玉さんが演じる神崎のほうに、ついつい感情移入してしまいます。

また珍しいのは、特撮スタッフがクレジットされていることです。該当場面は、(ミニチュアの)ヘリコプターの爆発シーン。ダイナマイト爆破のシーンでは、東映の子ども向け特撮番組からのライブラリー(流用)・フィルムも使用されているようです。特撮監督としてクレジットされているのは矢島信男さんと佐川和夫さん。いずれも日本の特撮映像界の大御所です。なお、全くの偶然でしょうが、本作の放送日(1979年3月3日)は、スーパー戦隊シリーズに初めて「巨大ロボット」が登場した『バトルフィーバーJ』第5話「ロボット大空中戦」が放送された日でもありました。この作品の特撮監督も、矢島さんと佐川さんが連名で手がけています。

そして、ドラマファンはやはり本作でも、多彩なバイプレーヤーたちの登場に目を奪われることでしょう。「影の長老」と呼ばれる、政界の黒幕役の内田朝雄さんなどは、まさにハマり役。その他の政界関係者たちに扮するのも、「おなじみの顔ぶれ」と言えるベテラン陣です。若手(当時)では、神崎の計画に協力する共犯者として片桐竜次さん、辻萬長さん、風戸佑介さんが出演。風戸さんは本作の後、早々に引退されましたが、片桐さんは『相棒』シリーズで、辻さんは『いだてん』や『なつぞら』などのドラマで、近年も活躍されていますね。

それでは、また次回へ。なお、7月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか、1983年の『火曜サスペンス劇場』作品である「夕陽よ止まれ」(出演:丹波哲郎、野際陽子、紺野美沙子ほか)も放送されます。時期的には、長寿番組となった『Gメン』シリーズを終えたころの丹波さんが、『Gメン』の“ボス”とは異なるイメージの主人公を好演した作品で、味わい深い演技を見せてくれています。こちらもぜひ、ご覧になってみてください!

文/伊東叶多

<放送日時>

『0計画(ゼロプラン)を阻止せよ』

7月6日(土)13:00~14:50

7月20日(土)13:00~14:50

 

『夕陽よ止まれ』

7月13日(土)13:00~15:00

7月27日(土)13:00~14:50

 

2019年7月2日 | カテゴリー: その他
かめぽん

チューもく!! 日野所長、マリコさんに翻弄されつつも頑張る、上司の鏡

「科捜研の女」大好きです。好物です。沢口靖子さん演じる榊マリコ、リアルで同僚だったら本当に辛い。マイペース、人の言うこと聞かない、自分勝手、走り出したら止まらない(^_^;)。そんなマリコさんに上司や同僚たちはなんと深い愛を示すのだろうか。で、日野所長。文書鑑定の専門家として招かれ、着実に実績を積み所長へと昇進。だが、長時間労働で心疾患になって死にそうになったりと、苦労だらけ。マリコさんたち部下と上役に挟まれ四苦八苦する場面も。…頑張れ!所長!
今月は「科捜研の女スペシャル」と題して、シーズン3、4の初回スペシャルと5、6の最終回スペシャルを放映。マリコさんに酷使される日野所長(まだこの頃は所長じゃないけど)をはじめとする同僚たちを応援したい。

201907

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今月は夏休み目前、ONE PIECE STAMPEDE 公開記念 ワンピース スペシャル Vol.1。「デジモンアドベンチャー THE MOVIE!」はかめぽんの後輩がリアル世代。子供の頃観ていた作品、いまも楽しめるなんて、いい時代だ。かめぽんは朝ドラで話題の「白蛇伝」←DVDあるんだけど、を観るぞ!
「東映時代劇スター列伝Vol.4 東千代之介」。千代之介さんのはんなりした風情が好き。仇討ちもの元祖の「曽我兄弟 富士の夜襲」は必見。
他にも特撮、時代劇、任侠もの、アニメと盛りだくさん。大人にはちょっぴりお色気のラインナップも。暑い夏はスカッとする作品で乗り切ろう。

今月も、わくわくな東映チャンネルをお見逃しなく〜

2019年7月1日 | カテゴリー: かめぽん
かめぽん

チューもく!! 昭和の歌姫、今も心にずんと響く

橋蔵さん、千恵蔵御大に続く「東映時代劇スター列伝」は美空ひばりさん。かめぽんの連れ合いはひばりさんの東京ドームコンサートを拝見する機会があったのだが、心にずんと響いたそうだ。翌年、ひばりさんは52歳で亡くなる。若い。いまのかめぽんよりも若い。子供の頃のひばりさんはすでに大スターで、亡くなった年齢を伺ったときに「え?」っと思うほどずっと、ずっと大人に感じられた。ひばりさんの歳を超えたかめぽんだが、なんだかずっと子供で、トホホと情けなくなっている。昭和のスターさんたちはかめぽんのイメージする大人そのものだった。
没後30年。長いようであっという間。若くて、溌剌とした時代劇のひばりさんを堪能しよう。橋蔵さんとの共演の「振り袖太鼓」「花笠若衆」里見浩太朗さんと共演の「いろは若衆 ふり袖ざくら」「いろは若衆 花駕篭峠」など6本をオンエア

201906

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
今月は日本映画を牽引する俳優・監督の作品の特集や、お馴染み特撮ヒーロー特集、相棒-劇場版特集、任侠から時代劇まで盛りだくさん。懐かしのマジンガーZ特集もあるし(おっぱいロケットに衝撃を受けた子供時代が懐かしい)、名作アニメ特集には大好きなハッスルパンチが。某国営放送の朝ドラのモデルって東映動画だよね。ハッスルパンチを観て、あのオープニングを観ると、きっと何か感じるものがあるはず。ちなみにかめぽんは東映アニメーション・ファンクラブ会員でした

今月も、わくわくな東映チャンネルをお見逃しなく〜

2019年6月1日 | カテゴリー: かめぽん
その他

チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第4回『女からの眺め』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、『火曜サスペンス劇場』(81~05年)において、1987年の正月第1弾作品として放送された「女からの眺め」をご紹介します。脚本は、NHK『天下御免』(71~72年)、『夢千代日記』シリーズ(81~84年)、『花へんろ』シリーズ(85~88年)などで知られる早坂暁。監督は、本作放送の翌年よりスタートした『はぐれ刑事純情派』(88~05年)で一貫してメイン監督を務め、唯一の劇場版も手がけた吉川一義。そしてキャストは文中で紹介していきますが、主演級がズラリと揃った豪華な布陣となっています。

総合病院の「聖カトリーヌ病院」で内科医を務める鶴見朝子(岡田茉莉子)はひそかに、病院の隣にある「三王デパート」の売上金20億円の強奪計画を立てていました。朝子が声をかけていた「共犯者」は、すべて女性ばかり――。

詐欺にあって大金を失った、看護師の波崎くに子(樹木希林)。妻子ある上司との不倫関係の末に捨てられた「三王デパート」経理部員・原まゆみ(川上麻衣子)。夫が事故死したシングルマザーで、乳癌のため余命宣告された芸者の元木英子(永島暎子)。舞台の人気女優でありながらも、やはり病のため、やがて脚を切断しなければならない麻生花絵(三ツ矢歌子)。かつて女郎屋にいた老婦人で、現在は聖カトリーヌ病院で清掃員を務める土井原玉代(加藤治子)。そして、モデルだが暴漢に襲われ、性病に感染した辻井ユキ(城源寺くるみ)。この6人に朝子を加えた7人がフルメンバーです。朝子自身もまた癌患者で、しかも母・カズエ(鈴木光枝)は認知症にかかっていました。

それにしても、女性ばかりで大金を強奪しようとは、なんとも大胆な計画です。しかし、朝子やくに子には、勝算がありました。

7人が目指すのは、計画を成功させて、都会を離れたユートピアで、ひっそりと生きること。決行日は12月15日。7人それぞれの明確な役割も決まりました。果たして、20億円の強奪はうまくいくのでしょうか? それとも……!?

 

……というわけで、プロット自体はシンプルながらも、ひじょうに興味をそそられるものです。さまざまな背景を持った7人の女性が、完全犯罪に挑む。ネタバレぎりぎりのことを書かせていただくと、女性陣のキャスティングが豪華すぎたせいでもないでしょうが、本作では、いわゆる「捜査関係者」にあたるキャラクターは、ほぼ出てきません。そんなヒント(?)から、展開を想像していただくのも面白いのではないでしょうか。

全体の構成としては、クライマックスの「犯行」からは、とてもスピーディーに描かれていきます。ドラマの中心を成すのは、犯行へ至るまでの7人の女性の関わりです。とりわけ中盤の「作戦会議」の一連は圧巻。なんといっても、岡田茉莉子をはじめとする「犯行グループ」の女優たちは、本来はそれぞれが主演を張れるレベルなのですから(ユキ役の城源寺くるみは「にっかつロマンポルノ」最晩年にデビューし、活躍していた若手女優。『アリエスの乙女たち』などテレビドラマの出演も多い)。

中でも、くに子役・樹木希林と玉代役・加藤治子のちょっとしたやりとりは、本作の良いフックとなっています。ご存知のように、このふたりは『七人の孫』(64~66年)や『寺内貫太郎一家』(74~75年)などでも共演。お互いを知り尽くした女優同士だけに、その「かけあい」の妙は抜群なのです。さらに、「犯行」の真っ只中においては、まゆみ役の川上麻衣子も体を張った熱演を見せます。当時20歳で、7人の中でも最も若かったのが彼女ですが、並み居るベテラン女優たちに負けない存在感を示しました。

他のキャストとしては、ユキを診察する女医・植村役に黒田福美、まゆみの上司で経理部長の平田役に浜畑賢吉、朝子の夫・和夫役に石山雄大、花絵がペットを入院させる犬猫病院の医師役に池田鴻、「三王デパート」の守衛役に相馬剛三、デパートの売上を受け取りに来る銀行員役に津山栄一、など。ちなみに池田鴻はアニメ『機動戦士ガンダム』(79~80年)の主題歌シンガーとしても知られますが、惜しくも本作が放送された翌年、48歳の若さで世を去っています。

劇中、ちょっと驚くのが、くに子の台詞で「有楽町三億円事件」に触れた箇所があることです。同事件が発生したのは1986年11月25日で、本作の放送の6週間前。少なくとも該当シーンの撮影は、この事件の発生後に行われていたわけで、2時間ドラマとしては、意外にタイトなスケジュールだったことがわかります。とはいえ、この台詞の存在は、特にリアルタイムの視聴者に対しては、効果を与えていたと言えるでしょう(同事件は、1988年4月に主犯格がメキシコで逮捕されたことで終結しました)。

最後に、本作の味わい深いタイトルについて。朝子の務める病院から犯行現場となるデパートが見えることや、女性だけによる犯罪計画であることが、もちろんタイトルの由来となっているのですが、作品をトータルで観ていると、その他にもタイトルに込められた意味がいくつも感じられます。「昭和」末期に企画された、2時間ドラマの秀作を存分にご堪能ください。

それでは、また次回へ。なお、6月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか、1981年の『土曜ワイド劇場』作品である「死刑執行五分前」(主演:若山富三郎、中村玉緒)も放送されます。こちらの原作は、戦前から売れっ子の脚本家として活躍し、1950年代の邦画全盛期に東映京都撮影所作品を数多く手がけて「比佐天皇」の異名をとった比佐芳武(1981年12月没)。脚本家としての活動は70年代前半までだったようで、本作はある意味での「遺作」と言えるかもしれません。「女からの眺め」と併せ、ご覧になってみてください!

文/伊東叶多

 

<放送日時>

『女からの眺め』

6月8日(土)13:00~

6月22日(土)13:00~

6月25日(火)22:00~

 

『死刑執行五分前』

6月1日(土)13:00~

6月15日(土)13:00~

6月29日(土)13:00~

2019年5月21日 | カテゴリー: その他
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