先月(9月)はお休みしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。前回が「第42回」だったので、あらぬ想像をした方がいらっしゃるとか、いらっしゃらないとか……。何事もなかったように継続させていただきますので、よろしくお願いいたします。
さて、そんな今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1983年の『土曜ワイド劇場』より『瀬戸内海殺人事件』をご紹介します。原作は草野唯雄(そうの・ただお)先生で、作品は1964年に発表され、1972年に単行本化されました。
地質学の権威・重枝昌光教授(穂積隆信)は妻で画家の恒子(水野久美)と険悪な状態になっており、彼の愛情は、いまではお手伝いとして働いている宮本園江(池波志乃)に注がれていました。しかし、恒子は離婚に応じようとしません。そこで重枝はいつしか、恒子を殺害したいと考えるようになりました。
そのチャンスは、意外と早くやってきました。重枝家に仕事で出入りしている青年・和久秋房(原田大二郎)が、重枝に借金を申し込んできたのです。和久は誰にも言えない借金をしており、バレたら会社をクビになることは間違いないため、重枝を頼ったのでした。重枝にとって、この話は好都合。金を工面してやる代わりに、自らが立案した「殺人計画」に、和久をむりやり誘いました。和久と、愛人の園江。この2人に妻の恒子を殺害させて、自分には完全なアリバイを作っておく、というものです。園江は当初、抵抗していましたが、結局、重枝の指示通りに動くことを了承。こうして、ひとつの犯罪が動き出しました。
重枝の計画は周到でした。恒子は、実際には東京で殺され、死体を埋められたのですが、園江が恒子になりすまして行動することで、「恒子は海に身を投げて自殺した」ということになったのです。もちろん、存在するのは状況証拠だけで、海から恒子の死体が発見されることはありません。しかし、恒子は行方不明となっているわけで、これでほぼ、恒子の自殺は成立するのです。あとは重枝、和久、園江が口裏を合わせれば、「完全犯罪」も目前でした。
そんなとき、恒子の自殺に異議を唱える人物が現れました。恒子の妹で、フリーカメラマンをしている尾形明美(浅茅陽子)です。姉の性格をよく知る明美にとって、自殺は考えられませんでした。しかも明美は、重枝家にもよく出入りしており、最近、夫婦仲がうまくいっていないことも知っていました。重枝が姉を殺したのではないか、と直感的に疑った明美は、重枝を介して知り合っていた和久に、真相を究明するために協力してほしいと依頼します。まさか、和久も共犯者だったなどとは、このときの明美には、知る由もありませんでした。
和久は断るわけにもいかず、慎重を期しながら、明美と行動をともにしました。少なくとも重枝には、鉄壁のアリバイがあるのです。いずれ明美も諦めるはず、と思っていた和久でしたが、姉への思いが強い明美は、この事件の不審な点をどんどん指摘していきます。このままでは、完全犯罪に危険信号が!?
ところが、事件に関連して、新たな殺人が起こり……。
本作の製作は、テレビ朝日ではなく、朝日放送が担当。四国ロケを敢行し、スケール豊かな推理劇が展開されました。
中盤までの焦点は、真相を隠したい犯人グループ側と、真相を突き止めたい主人公・明美のやりとりです。和久を原田大二郎さんが爽やかに演じていることもあり、途中から観た人などは、明美と和久がコンビで犯人を捜す話のように勘違いするかもしれません。
しかし、本作では後半にあっと驚く「どんでん返し」が待ち受けています。前半、ある一連のシーンで実に巧い演出がなされており、筆者などは、それに見事にダマされてしまいました。ある意味では「禁じ手」と言えるかもしれない展開ですが、映像作品での推理劇の特性が活かされており、決して「ルール違反」ではありません。おそらく、勘の良い方は、ダマされず、劇中の登場人物たちより少々早く、絶妙な「からくり」に気づくのではないでしょうか。とにかく、先のあらすじに記した「新たな殺人」のところまで、ご覧いただければと思います。そこまでを観たら、ラストを確認せざるを得なくなるはずなので。
監督は当時、2時間ドラマを中心としつつ、『特捜最前線』にも参加していた松尾昭典さん。日活の黄金時代を支えた手腕は、テレビドラマの世界でも健在でした。本作の翌月には同じ『土曜ワイド劇場』で、森村誠一先生が原作の『高層の死角』を担当(1983年4月30日放送)。さらに同年の8月には、本作と同じ原作者、脚本家(高橋稔さん)、音楽担当(三枝成章さん)、主演という布陣で『ハイミス探偵日記』も手がけています。本作と共通の出演者には他に下川辰平さん、湖条千秋さんがいました。
また、本作には林健樹さん、香野麻里さんも出演されていますが、ご両名は同時期、『科学戦隊ダイナマン』にレギュラー出演。番組の最終盤まで活躍する悪役を好演しました。本作と『ダイナマン』はいずれも、東映の阿部征司プロデューサーが担当しているため、そのつながりでのキャスティングだったと思われます。
……それでは、また来月の当コラムにて、お会いしましょう。
文/伊東叶多(Light Army)
<10月の『Gメン’75』>
10月が初回放送となるエピソードは、第83話から第90話。第85話「’77元旦デカ部屋ぶっ飛ぶ!」は、1977年の元日に放送された、深作欣二監督作品です。また、第86話から第88話は、ヨーロッパ・ロケ三部作。時効が成立した三億円事件の真相を突き止めるためGメンがパリへと飛びます。川津祐介さん、范文雀さん、中島ゆたかさん、西田健さんといった『Gメン’75』おなじみのゲスト陣が熱演! ぜひ、ご期待ください。
そして『ピンスポ!』では、津坂刑事を演じた岡本富士太さんが登場。『Gメン’75』の秘話をたっぷりを語っていただきましたので、こちらもお見逃しなく!
【違いのわかる傑作サスペンス劇場/2022年10月】
<放送日時>
『瀬戸内海殺人事件』
10月8日(土)18:00~19:50
10月21日(金)11:00~13:00
10月31日(月)24:00~26:00
『花柳幻舟獄中記Ⅱ』(監督:森崎東/主演:花柳幻舟)
10月23日(日)23:00~25:00
『華やかな死体』(監督:池広一夫/主演:竹脇無我)
10月11日(火)22:00~23:50
10月21日(金)13:00~15:00